王女・ヴェロニカ
その二人を、ビアンカはあからさまに警戒しているが、セレスティナの方はそうでもない。いつもと変わらぬ、穏やかな笑顔を浮かべている。
「ヴェロニカ、そのシートを畳んでバスケットにしまってちょうだいな」
「あーはい、はい……」
「ヴェロニカ……わたくしは、畳んで、とお願いしたのですよ?」
だから畳みましたが、と改めて差し出されたシートは、お世辞にも「畳んだ」とは表現しがたいものである。
珍しくセレスティナが眉間を軽く指で押さえた。
「あー……その、ヴェロニカ」
「はい」
「あなたの中では畳んだことになるのでしょうけれど、世間で畳んだといえばこの状態を差すのです」
ビアンカの手には、きちんと正方形に畳まれたシートがある。侍女の二人も、きちんとハンカチやタオルを畳んでいる。
「ヴェロニカ、お仕事も武術も結構です。王を助けて励んでくれることをうれしく思っています。ですが……」
言葉を切ってヴェロニカ見つめたセレスティナは、王妃ではなく母親の顔をしていた。
「もう少し、家事ができるようになりなさい。明日から一日一時間で構いません。女官長と一緒に行動なさい。結婚してから困ります」
「……え!? わたしは困りません」
「困るのは、あなたの旦那さまとなる人です。いいですね?」
がっくり項垂れるヴェロニカの肩を、ビアンカがポンと叩いた。
「そういうことが得意な男性を婿にすればよいのですわ! ね、セレスティナさま?」
「ビアンカ……ヴェロニカより武術が強くて賢くてたくましい男性の知り合いはある?」
「なんですかその条件は?」
「ヴェロニカの理想の男性だそうですよ。この条件をクリアする相手と結婚するとか……」
ビアンカの目が丸くなった。
「軍の将校募集ではなくて……? ヴェロニカさまの結婚相手の条件なのですか?」
「聞いたことがないでしょう? そこに今、家事全般が得意、という条件が加わったわね……」
「……家事全般が得意な男性ならばいるでしょうけれど……ヴェロニカさまより強い男というのは……」
簡単に見つかりそうにないわね、と呟いたセレスティナは、しかし次の瞬間、ビアンカの肩を抱いてその場に伏せていた。
「セレスティナさま!?」
「ビアンカ、動いてはいけません」
「ヴェロニカ、そのシートを畳んでバスケットにしまってちょうだいな」
「あーはい、はい……」
「ヴェロニカ……わたくしは、畳んで、とお願いしたのですよ?」
だから畳みましたが、と改めて差し出されたシートは、お世辞にも「畳んだ」とは表現しがたいものである。
珍しくセレスティナが眉間を軽く指で押さえた。
「あー……その、ヴェロニカ」
「はい」
「あなたの中では畳んだことになるのでしょうけれど、世間で畳んだといえばこの状態を差すのです」
ビアンカの手には、きちんと正方形に畳まれたシートがある。侍女の二人も、きちんとハンカチやタオルを畳んでいる。
「ヴェロニカ、お仕事も武術も結構です。王を助けて励んでくれることをうれしく思っています。ですが……」
言葉を切ってヴェロニカ見つめたセレスティナは、王妃ではなく母親の顔をしていた。
「もう少し、家事ができるようになりなさい。明日から一日一時間で構いません。女官長と一緒に行動なさい。結婚してから困ります」
「……え!? わたしは困りません」
「困るのは、あなたの旦那さまとなる人です。いいですね?」
がっくり項垂れるヴェロニカの肩を、ビアンカがポンと叩いた。
「そういうことが得意な男性を婿にすればよいのですわ! ね、セレスティナさま?」
「ビアンカ……ヴェロニカより武術が強くて賢くてたくましい男性の知り合いはある?」
「なんですかその条件は?」
「ヴェロニカの理想の男性だそうですよ。この条件をクリアする相手と結婚するとか……」
ビアンカの目が丸くなった。
「軍の将校募集ではなくて……? ヴェロニカさまの結婚相手の条件なのですか?」
「聞いたことがないでしょう? そこに今、家事全般が得意、という条件が加わったわね……」
「……家事全般が得意な男性ならばいるでしょうけれど……ヴェロニカさまより強い男というのは……」
簡単に見つかりそうにないわね、と呟いたセレスティナは、しかし次の瞬間、ビアンカの肩を抱いてその場に伏せていた。
「セレスティナさま!?」
「ビアンカ、動いてはいけません」