王女・ヴェロニカ
「なんでも、このあたりの歴史が書かれているんだとか。あんまり気前が良いんで、お頭がいねぇから出直してくれ、って追い返しておきました」
 よくやった、とマイクがサムを褒めた。丸顔を更に丸くしてサムが喜ぶと愛嬌がある顔になる。
「お頭、次、おれの話も聞いてください」
「おう」
 ジョグが神経質そうな顔を、きゅっと歪めた。そうすると、左頬にある傷がぐっと目立つ。きっと、相手を威嚇するために身につけた技だろう。
「役場の倉庫に閉じ込めておいたピッカ一団が全員逃げ出したそうです。なんでも奴らの頭が助けに来たとか。役人が何人も殺されたって話です」
「逃げた奴らはどこへ行ったんだ?」
「エンリケ邸にいるのを見つけました。役場の奴らも、エンリケには逆らえませんからね……」
 おれ、奴らが許せないんです、とジョグが呟いた。
「おれらの縄張りを無茶苦茶に荒らして……。お頭、このまま放っておくんですか?」
 それだ、とヴェロニカが立ち上がった。その拍子に、サムとジョグが飛び上がってマイクにしがみつく。
「……あんたたち、やけにわたしを怖がるじゃない?」
「だっ、だって……おれたちアジトで、姐さんの棍棒に滅多打ちにされてるもん!」
 こえーよー! と合唱されてヴェロニカが力を落とした。
「……それは悪かったわ」
「で、ヴェロニカ、どうしたんだ?」
「さっき、エンリケの戦力を削りたいって言っていたでしょう? エンリケ邸にいるピッカ一団をマイクたちが叩けばいいのよ! 名目は縄張りを荒らされた報復! もちろん、わたしの兵も足して大勢で行けばいいでしょう?」
 賛成、とサムとジョグが盛大に手を叩いた。マイクとグーレースは目を丸くして顔を見合わせている。
「さすがだ姐さん、話がわかる!」
「ね、ねえ、サム、その姐さんってのは……」
「え? だってマイクお頭の彼女でしょ? だったら俺らにとっちゃ、姐さんだ!」
 ヴェロニカとマイクの「違う!」という声が重なり、若い海賊二人が大笑いした。
「お頭、海賊団は俺らに任せて、王宮へ戻ったっていいんですよ。なあ、サム?」
「ああ。ヴェロニカさまなら、お頭をお任せできるってもんさ!」
 真っ赤な顔で口をパクパクさせる二人をみて、グーレースが小さく笑った。
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