王女・ヴェロニカ
 ヴェールは、いろいろと食べ物や飲み物を広げて、ノア王子と文化交流を推し進めている。
(叔父さまがここに捕らわれているのも、わたくしを正妃にしようと父さまが企んだから……)
 ビアンカは、たまらなくなって本営の入り口まで走り出た。
「そうだわ……。父さまに逢いに行きましょう……」
 逢ってどうなるかは、わからない。
 更に事態が悪くなるかもしれないが、何もしないままではいられない。
 ビアンカは、土砂降りの向こうに煌めく『エンリケ邸』を鋭く見つめた。
 
 その頃、ヴェロニカたちが知らないところでマイクは『ピッカ一団掃討作戦』を練っていた。
 古い木の机にランタンを置いて、大小さまざまな羊皮紙を広げて羽ペンを握る。
「あー……でも時間がねぇからダメだ……これは人数が足りねぇ……!」
 それを覗き見た仲間の一人が、
「お頭が率いる『マイク船団』vs『ならずもののピッカ一団』、いよいよ激突っすね!」
 と叫んだ。
「ひゃっほー! さすが我らのお頭!」
 サムが丸い体を揺すって喜ぶと、ひょろ長い体も同意するように動き、マイクは苦笑した。
「念入りに計画を練っている時間がねぇ。行き当たりばったりだからな、どうなるかわからねぇ。でもこの大雨が、一回目のチャンスだという気がするんだよな」
 そういうの大好き、と、海賊たちは武器を掲げた。
「呑気だな、お前ら。相手は薬物で操られた兵、しかも、訓練積んだ兵士だ。負けたら死ぬかもしれねぇし、ここに帰れなくなるかもしれねぇんだぞ?」
「大丈夫っすよ! 自分たちは海の上で暮らしますから!」
 ぽん、とジョグがマイクの肩を叩いた。
「……まあな? 俺たちは無敵のマイク船団だもんな」
 マイクが迷いを振り切るように赤ワインを豪快に飲み干すと、海賊たちがわっと沸いた。
 あちこちでワインのコルクが飛び、瓶がぶつかる音がする。
「よし、お頭、この勢いで行っちゃいましょう!」
「あん?」
「大丈夫、雨に隠れてエンリケ邸の様子をちょっと見るだけっす。突っついて、ヤバいと思ったらとっとと船でティーラカまで退散! ほとぼりが冷めるまで海の上!」
 それでも決断しかねるマイクに、ジョグが言った。
「お頭、我々は軍じゃないっす。海賊っすよ、賊! 賊に作戦は不要でしょ?」
 マイクの返事を待たず、勇ましい「マイク船団」はエンリケ邸に向かって進んでいく。
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