王女・ヴェロニカ
「お前が正妃となって、リーカ国の世継ぎを産む。それがこの革命を大きく前進させるのだよ。その間に我々はリッサンカルアとアシェールに兵をすすめるつもりだが、アシェールは思いのほかもちそうだからな……。リッサンカルアを先に落としてヴェールを領主として送り込む。ヴェールは、ヴェロニカを妻にしたいと言う。女の趣味は疑うが、我々『古の王者・エンリケ一族』の血と現王族の血、両方を受け継ぐ子は、絶対の王者であるな。問題はアシェールであるが、あそこはどの王子が跡を継ぐのかすらわからないからな、しばらく様子見だ」
 自分が居なくなれば父親の「革命」を阻止できると思い、説得を試みにきたのだ。だが、この父とは、まるで話にならない。
 父の話に適当に相槌を打ちながら、機械的に食べ物を口へ押し込むビアンカの心は、悲しみでいっぱいになっていた。
(ヴェロニカさま……何もお役にたてませんでした……)
 用意された寝室は、最上級のものだ。もしかしたら、質素を好むヴェロニカの寝室より豪華かもしれない。
 綺麗なもの、豪華なものを見れば見るほど、ビアンカの心は冷めていく。
 窓を開けてテラスに出れば、大雨で増水した川がすぐそばを流れていることに気が付いた。その水は、この宮殿内に引き込まれている。
「あそこから小舟が出入りするんだわ……!」
 きっと、兵や薬物が運び込まれるのだろう。
 ここからヴェロニカ軍やマイクたちを引き入れることができれば、思いのほか簡単に宮殿内が制圧できるのではないか——。
 ランタン一つを手にして、宮殿内部をそぞろ歩く。
 時々、侍女や衛兵に遭遇するが、
「初めての宮殿だから、ゆっくり見て回っているの。気にしないで」
 と言えば、疑われることなく解放された。そのまま地下へ地下へと降りて行き、雨の音と水のにおいを頼りに進んでいく。
「あった、船溜まり……!」
 増水に備えて船は全部壁際に寄せてある。
 いずれも、市民が使う小型船よりも大きく、厚かましいことにすべてにエンリケ家の紋章が入っている。ここの川幅や深さを考えて作られた特製の船だろう。
(少し、川に流してしまいましょう。あとでグーレースに頼んで回収してもらって……わたくしたちが使えばいいわ)
 ヴェロニカの真似をして、太ももに巻きつけた短剣がある。ヴェロニカが、護身用に渡してくれた、短剣だ。
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