王女・ヴェロニカ

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 マイクの指示で、海賊たちは二人が医者のところへ走り、二人がヴェロニカの本営へと走った。
 ヴェロニカの陣営では、ビアンカの姿が消えたことで捜索隊を出そうとしているところだった。
「あの、お頭からの伝言です。『ビアンカは保護した』って!」
「すぐに行こう、そなた、案内を頼む」
「へっ、へえ!」
 本営から飛び出したグーレースのすぐ後ろを、ハリーが追いかけてきた。
「グーレース長官、僕もお連れ下さい。これ……ビアンカさまとヴェロニカさま、お二人が持っていた薬草の袋です。何か役に立つかもしれません」
「ハリーどのは薬草の知識がおありか」
「はい。ノア王子は、今でこそ、毎日にこにこしていますが、国にいるときは暴君そのもの。ヒーリアさまや側室方は怪我や病が絶えませんでしたので……」
「そうであったか……」
「あそこまで王子が丸くなったのは、ヴェロニカさまの影響だと思います。ノア王子もヴェロニカさまも、嫌な顔をなさるでしょうけれど……」
 ヴェロニカも、時折ノア王子に「上に立つもの」としての立居振舞や考え方を教えられていることがある。
(陛下、此度の遠征、思った以上に収穫があったようですぞ……)
 『女王・ヴェロニカ』にまた一歩、近づいたのだろう。
 
 海賊のアジトに寝かされたビアンカはぐったりとしている。
「師匠とハリーが来てくれたか、ビアンカはこっちだ」
「ビアンカさま! おおお……マイク、どうしてこのようなことになったのか、何か知っているか?」
「ビアンカの近くに、エンリケ家の中型船が何艘も浮いていたらしい、船を川へ押し出していて誤って落っこちたのかもしれねぇ……」
 見たところ大きな外傷もなく呼吸は安定しているが、衰弱しているのは明らかだ。
「マイク……ビアンカさまを医者に診せたい」
「ああ、今、仲間が医者を呼びに行った……」
 マイクの言葉が終わらないうちに、血相を変えた仲間が飛び込んできた。
「お頭っ、大変です。この町の医者は一人残らずエンリケ邸へ連れていかれて、医者が居ません!」
「なんだと!?」
「薬物の調合が出来るから、連れて行かれたとか……」
 くそっ、とマイクが机を叩いた。その傍では、緊張気味のハリーが薬草を机に並べて睨んでいる。
「腕の確かな医者がいる、最も近い町はどこですか?」
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