王女・ヴェロニカ
「ふむ、ならば、わらわも同行しよう。男ばかりではビアンカさまが心細いであろうしな。リーカ国のご側室の移動で不都合がある時に、わらわが友好国を訪問するという形をとればよかろう?」
 それに、とヒーリアがグーレースを見た。
「おそらく、王女と貴殿はここで逆臣を討つか捕えるか、するのであろう? そのような場に他国の者はおらぬ方が良い」
 グーレースは深々と一同に頭を下げた。いう言葉が見つからなかった。
「そうと決まれば、我々も荷造りをしなくては。ノア王子、貴殿はどうなさる?」
「俺はここに残るよ。ここに残ったほうが楽しそうだからね。それに、マイクが残るのだから俺も一緒にいるさ、決まっているだろう、がっはっは!」
 久しぶりにノア王子の豪快な笑いが響き、一同はつられて笑った。

 ヒーリアとハリーと眠ったままのビアンカ、それからヴェールと、彼が率いる陸軍兵士三千は、海賊たちが調達した中型船に分乗し、大雨の中、ジャジータを出発した。
 マイク船団の猛者たちが緊張の面持ちで船を出発させると、あっという間に船は見えなくなった。
「荒海を何度も生き残った奴らだけど、暴れ川を、陛下の側室や王室の客を輸送する、という一大任務に、さすがに緊張してたな……」
「マイク、お礼のことなんだけど」
「ん?」
「父さまに掛け合って、マイク船団を王室御用船団にしようとおもう」
「はぁ!? お前、正気か? まだ熱があるんだろ、横になれ!」
 前から考えていたの、とヴェロニカが笑う。
「これからは、陸路だけでなく水路も活用しないといけない。ノア王子によると、海の向こうにはいくつも面白い国があるんだって。わたしは……海の向こうの国へ行ってみたい。船団を一から用意すると時間がかかるけど、マイク船団は海のプロでしょう?」
 マイクは、大海原で髪をなびかせるヴェロニカを想像してみた。
 双眼鏡やコンパスを見るヴェロニカ。
(似合うじゃん……)
「うん、良いんじゃねぇ?」
「なに他人事みたいな顔してるのよ。もちろん、マイクも一緒に行くのよ!」
 にこっ、と笑ったヴェロニカは、
「さーて、エンリケを倒すわよ! グーレース、軍議開始!」
 と気合を入れながら本営へ戻って行った。
「さて、我がヴェロニカ軍はおよそ一万七千。エンリケ軍は不明。いかが致しましょう」
 ヴェロニカが難しい顔をするが、マイクは、にっと笑った。
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