王女・ヴェロニカ
 ちらりと目線だけを周囲に走らせれば、スカートの中から愛用の棍を引き抜いたヴェロニカと、それぞれ愛用の武器を構えた侍女二人が仁王立ちになっている。
「……ひっ」
「ヴェロニカが良いと言うまで動かないのが約束なのですよ、ビアンカ」
 ヴェロニカが棍で戦うところを、知らないわけではない。
 棍や剣を振り回している姿はしょっちゅう目にしているし、兵の調練に付き合ったこともある。
 だが、こんな至近距離で——剣と棍がぶつかる音、刃が空気を切る音、うめき声、殴打の音が聞こえる——戦闘に遭遇したのは初めてだ。
 小刻みに震えるビアンカの手を、セレスティナが優しく握りこんだ。
「大丈夫よ、ビアンカ」
「怖い……助けて、母様……」
「すぐに終わるわ。さ、目を閉じて、耳も閉じて……」
 ビアンカは、相手が国の王妃だと言うことも忘れて、セレスティナの胸元にしがみついた。
< 15 / 159 >

この作品をシェア

pagetop