王女・ヴェロニカ
「ビアンカが立ててくれた計画は、続きがある。近いうち、エンリケ邸には美味い酒と美酒、美女が送り込まれて宴会が開かれる。その時に俺たちはもう一度攻める」
 勝ち目はない。
 だが、ビアンカが一生懸命立てた計画を、何が何でも実行したくなったのだ。
「俺らは『賊』だからな。気に入らねぇものは、気に入らねぇからやっつける。それだけだ」
 ノア王子が
「マイク、かっこいいぞ、さすが俺のマイクだ!」
 とうれしそうな顔つきになり、ヴェロニカに蹴飛ばされた。その傍で、グーレースが左手で眉間の皺を揉み解しながらもう片方の手を挙げた。
「畏れながら……ヴェロニカさま」
「なに?」
「このまま撤退することも、お考え下され」
「うん……?」
「エンリケが逆臣である証拠をきちんと揃え、陛下の討伐命令書を持って、確実にエンリケを捕えられる、三万、いや、五万の兵を揃えて、ここへ戻ってくるのです」
 どうして、とヴェロニカの咎めるような視線がグーレースに突き刺さる。
「……ビアンカさまをエンリケから隠したので、エンリケは当分動けないでしょう。彼奴が娘を探している間に、我々は城へ帰りましょう。彼奴が娘の行方に気付いた時、我々は討伐隊を組織出来ているでしょう。そうすれば——」
「安全でより確実な、逆臣討伐が出来る、と?」
「はい、左様でございます」
 ヴェロニカが、棍をグーレースの喉元に突き付けた。
 その目はギラギラと光り、怒りが見え隠れする。だが同時に、迷いの色もある。どのくらい、時間が経っただろうか。
 ヴェロニカが、棍を静かに下ろした。
「……明朝、ジャジータの町を出発する!」
 御意、とグーレースが深々と頭を下げた。
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