王女・ヴェロニカ
老いた母は嘆いた。一人息子は「薬漬け」にされた挙句、異国との戦争で命を落とした。
若い母親は泣いた。夫がエンリケ軍に連れて行かれて帰ってこない。
少女は叫んだ。エンリケ家の兵に集団で乱暴された。
そして決まってこう吐き捨てる。
エンリケなど、滅びてしまえ——。
「エンリケはここまで憎まれていたのか——」
思わずヴェロニカが呟いたが、マイクなど
「ま、当然だな。民を苦しめるだけの統治者なんて、こんなもんさ」
と、言ってのけた。
そして、エンリケの「暴虐」に幕を下ろしたのも、民だった。
討伐隊本部に集った民は次第に興奮し、
「打倒エンリケ」
を合言葉に、ジャジータ宮殿へ行進していった。
ヴェロニカたちが必死で止めても、その声よりも「打倒エンリケ」の方が上回った。
「マイク! どうしたらいいの!」
「ヴェロニカ、ここはもう……民に任せろ」
ヴェロニカは、マイクに腕をとられて本部へと連れ戻された。
そしていつの間にか、全身傷だらけで顔が誰だかわからないほどに腫はれ上がったエンリケが、ジャジータ宮殿前に磔にされていた。
知らせをうけてヴェロニカが飛んで行ったとき、犯した罪の数々が書き連ねられた羊皮紙が、エンリケの胸元に張り付けられていた。
エンリケ本人の署名まで入っているそれを読み進めるヴェロニカの手が震えた。
エンリケの命をとらなかったのは、それでもビアンカの父親だから。
ビアンカは、ヴェロニカの一番の友達だから。
エンリケを助けに行ったヴェロニカは、ぐったりとした男を抱きかかえて、民の前で頭を下げた。
「この人を、殺さないでくれてありがとう」
と。
そんなヴェロニカに、民衆の殺意が叩きつけられた。
「ヴェロニカさま……やっぱりエンリケの味方なんじゃねぇか……」
血走った眼の群集は、ヴェロニカにわっと群がった。
襲った方も、見ていた方も、信じていた。ヴェロニカ愛用の棍が翻るのだと。
「あ、ああ……ヴェロニカさま……!」
「なんで……棍はどうなさったんですか……」
「罪もない人を殴れるわけ、ないでしょう? 棍は本営に置いてきたの。必要ないから……」
サーモンピンクのドレスの下には、小さな布袋が一つあるのみ。
民兵の群れから、武器と戦意が次々と落ちた。
若い母親は泣いた。夫がエンリケ軍に連れて行かれて帰ってこない。
少女は叫んだ。エンリケ家の兵に集団で乱暴された。
そして決まってこう吐き捨てる。
エンリケなど、滅びてしまえ——。
「エンリケはここまで憎まれていたのか——」
思わずヴェロニカが呟いたが、マイクなど
「ま、当然だな。民を苦しめるだけの統治者なんて、こんなもんさ」
と、言ってのけた。
そして、エンリケの「暴虐」に幕を下ろしたのも、民だった。
討伐隊本部に集った民は次第に興奮し、
「打倒エンリケ」
を合言葉に、ジャジータ宮殿へ行進していった。
ヴェロニカたちが必死で止めても、その声よりも「打倒エンリケ」の方が上回った。
「マイク! どうしたらいいの!」
「ヴェロニカ、ここはもう……民に任せろ」
ヴェロニカは、マイクに腕をとられて本部へと連れ戻された。
そしていつの間にか、全身傷だらけで顔が誰だかわからないほどに腫はれ上がったエンリケが、ジャジータ宮殿前に磔にされていた。
知らせをうけてヴェロニカが飛んで行ったとき、犯した罪の数々が書き連ねられた羊皮紙が、エンリケの胸元に張り付けられていた。
エンリケ本人の署名まで入っているそれを読み進めるヴェロニカの手が震えた。
エンリケの命をとらなかったのは、それでもビアンカの父親だから。
ビアンカは、ヴェロニカの一番の友達だから。
エンリケを助けに行ったヴェロニカは、ぐったりとした男を抱きかかえて、民の前で頭を下げた。
「この人を、殺さないでくれてありがとう」
と。
そんなヴェロニカに、民衆の殺意が叩きつけられた。
「ヴェロニカさま……やっぱりエンリケの味方なんじゃねぇか……」
血走った眼の群集は、ヴェロニカにわっと群がった。
襲った方も、見ていた方も、信じていた。ヴェロニカ愛用の棍が翻るのだと。
「あ、ああ……ヴェロニカさま……!」
「なんで……棍はどうなさったんですか……」
「罪もない人を殴れるわけ、ないでしょう? 棍は本営に置いてきたの。必要ないから……」
サーモンピンクのドレスの下には、小さな布袋が一つあるのみ。
民兵の群れから、武器と戦意が次々と落ちた。