王女・ヴェロニカ

:2:

 討伐隊の殆どを「ジャジータ復興隊」としてジャジータの町に残したヴェロニカは、城に帰るとすぐにエンリケの裁判の準備を始めた。
 まともな証拠がほとんどないため、難航することがわかっている。
 だが、
「裁判なしでエンリケを裁くことは避けたいの」
 と、ヴェロニカが強く希望した。
 さほど時間を置くことなく、エンリケは法廷の場に引き摺りだされた。
 両腕を戒められたエンリケは、大法廷の場でも己の主義主張を繰り返した。
「覇権を我がエンリケ家に取り戻すための、革命である! かつて逆臣に奪われたものを、子孫であるわたしが、我が手に取り返して何が悪いのか! お前たちこそ、エンリケ王から土地や民を奪った、簒奪者の血を引く者たちではないか! 覇権を返せ」
 裁判官は頭を抱えた。エンリケの話は途方もなく壮大だ。嘘か本当か判断のしようがない。
 かろうじで、マイクが提出した「古文書」に似たような記述があったが、だからといって
「すみませんでした、覇権を返します」
 と言えるものではない。
 それに、ヴェロニカがきっぱりと言った。
「大事なのはそこじゃないわ。王に無断で兵を蓄え、宮殿を建て、内乱を企んだことよ」
 理由はどうあれ王たるもの、臣下の造反を許してはならないのだ——。
 これは、ノア王子が繰り返しヴェロニカに説いた。

 更に陪審員や裁判官を困らせたのは、エンリケの具体的な『罪』だ。
 王位や王の命を直接狙ったわけではないので、『簒奪の罪』や『暗殺の罪』ではない。
 反逆と言えば反逆だが、王家を転覆させようと目論んだわけではないので、『反逆罪』を適用するにも証拠は薄い。
 現時点ではリーカ国に「革命」を禁ずる法はなく、アシェール国との戦いにしてもビアンカ奪還という名目があるため、これといった罪ではない。
 ジャジータに勝手に兵を集めていたことも、「ビアンカ奪還の用意」と言われてしまえばそれまでである。
 だが、不当に危険な薬物を使っていたことは、弟のヴェールと、ピッカ一団の下っ端が証言した。
 結局、『危険薬物取締法違反』と『駐屯兵法違反』と『軍紀違反』と『職務違反』程度しか、問うことが出来なかった。
「ラロ・サジャス・エンリケ軍事大臣。軍事大臣の任を解き、ジャジータ宮殿への生涯幽閉処分とする。なお、ジャジータの町を出ること一切まかりならぬ」
< 154 / 159 >

この作品をシェア

pagetop