王女・ヴェロニカ
「わらわは大歓迎であるぞ! そうじゃな、隣の部屋にはハリーもいることであるし、王子もいい加減、迎賓館へ移って参れ」
「ヒーリア……俺とマイクを引き離そうという魂胆だな!」
「当たり前であるぞ! マイクは王女の——次期女王の伴侶となるお方ぞ、その様なお方を追い回すのもいい加減にせよ!」
「ヒーリア、我が国は、相手が玉座にあろうが妻子があろうが男だろうが女だろうが、何も気にしないんだ。だから俺がマイクを追いかけようが、コロンを欲しがろうが、何ら問題はないのだ、がっはっは!」
 品が無くて申し訳ない、と、ヒーリアはリーカ国の面々に頭を下げた。

 それから数日後、当初の予定より多少遅れたものの、リーカ城大広間で『式典』が執り行われていた。
 現王が「こたびの騒動の責任をとって退任する」と騒いでいるため、コロン十三世は「法王」という地位に繰り上がった。
 そして、ヴェロニカが「王位継承順位第一位」のため、自動的に玉座に座ることになったものの、正式に王になったわけではないので、いつでも父親に玉座を返せる。
「まあ、仮王《かおう》・ヴェロニカ、ってところかしらね」
 本人も、まんざらではないようだ。
 正装したヴェロニカは、誰もが驚くほどに美しかった。そしていつのまにか、威厳も備えている。
 そして、仮王・ヴェロニカの最初の仕事は、新たに「お付き武官」と「お抱え船団」なるものの新設を宣言することだった。
 『お抱え船団』はジャジータからビアンカを輸送してきた一団だ。
 今後はヴェロニカと一緒に「海の外の国」を目指すという。
 そして「お付武官」も、お披露目された。
 白い詰襟に金ボタンの制服、白いつば付きの制帽の、マイクだ。革靴と剣は本人愛用のものだろう。
 赤かった髪の毛は元の金色に戻され、きりりとした表情と全身からは、上品さが漂っている。
「兄上、おめでとうございます」
 最前列で涙を浮かべて拍手しているは、新ブレータニアン帝国——つい数日前に承認されたばかりの国で、まだ領土はない——の若き王ヘンリー一世だ。
 その横では、アシェール国のノア王子とその側室・ヒーリアがいる。
 そのヒーリアの眼が、マイクの制服の胸元に光るコインで止まった。
「ん? あの紋章は……?」
 ヴェロニカが立っているすぐそばに掲げられている「王旗」と同じ紋章だ。
「王家の紋章だわ」
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