王女・ヴェロニカ
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式典を終えたヴェロニカは、執務室でサーモンピンクのドレスに着替えて、グーレース相手に棍を振り回していた。
「ああ、つかれた! あの正装、二度としない!」
ポイポイと脱ぎ捨てたドレスや小物を、ジャスミンとマイクがせっせと片付ける。
「ヴェロニカさま、次はフィオ殿下の立太子式ですな」
「そうね、良い日取りを選ばないと……」
「それから、アシェールから、ノア王子の滞在費が届きました」
助かるな、とマイクが思わず苦笑した。ノア王子は、良く食べ、良く飲み、良く遊ぶのだ。
「そういえばノア王子が、この国に永住したいって言ってたわ。どの程度本気かわからないけれど」
本当に永住してくれるなら、お客さまではなく、大臣として迎えたいと、ヴェロニカはこっそり考えている。
「本気といえば、俺、ハリーには驚いた」
「うん、祖国再建は、簡単な道のりではないだろうに……」
領土は、ほとんどがリッサンカルア領、残りはアシェール国のものになっている。それに、臣もいなければ民も城もない。
ただ、リッサンカルアに偵察に行っていた諜報部隊が持ち帰った情報によると、ブレータニアンの旧臣が各地に残っていて、ブレータニアンの再興を喜んでいるらしい。
彼らはすぐにでも、新王のもとへ戻ってくるだろう。
「まずは、拠点となる城を手に入れることからはじめるようですぞ。ノア王子も密かにヘンリー一世に兵を貸すとか……」
「グーレース、うちももちろん、援軍出すわよね?」
「はい、手配してございます」
リッサンカルアを落とすための軍に参加したい者を募ったところ、あっという間に一万人以上が集まった。
「本当はわたしが率いて行きたいところだけど……」
だめです、と一斉に声がかけられた。
「そうよね……。まずは、ジャジータの町の視察、再建よね。でも、行き帰りに出来るだけオオスナグマを倒すわよ!」
ヴェロニカが操る棍が綺麗な円を描いた。
【了】