王女・ヴェロニカ
 大丈夫よ、とヴェロニカは棍を握りなおした。びゅん、と一振りして腕にぴたりと添わせる。
「ジャスミンはわたしと一緒に来てちょうだい」
「はい、かしこまりました」 
 新しい侍女二人は、ビアンカの左右にぴたりとついた。
「あたしたちはここに残って、セレスティナさまとビアンカさまをお守りします」
「お願いね」
 いくわよ、とスカートの裾を跳ね上げて駆けだしたヴェロニカは、王女ではなくどうみても戦う者の顔だ。
 そして、淑やかにそれを追いかけるジャスミン。
「……ビアンカ……。ジャスミンの方が王女らしくにみえるのはわたくしだけかしら……?」
 侍女二人が思わず吹き出し、ビアンカが慌ててたしなめた。
「ヴェロニカさまは、勇猛果敢な歴戦の王女殿下であらせられますわっ! 素敵で頼もしいのよ!」
 ビアンカの宣言に、あちこちで忍び笑いが漏れた。
 血まみれ女将軍・ヴェロニカと呼ばれるより、その方がまだマシな気もしてくる。
「ビアンカ、あなたは本当に……王が仰る以上に良い子だわ……。どうかそのまま、ヴェロニカのお友達でいて下さいね」
 そのころ、勇猛果敢で歴戦の王女・ヴェロニカとジャスミンが駆けつけた病室では、ベッド脇でジュリアンが難しい顔をしていた。
「ジュリアン!」
「これはヴェロニカさま……」
「フィオの容態はどうなの?」
「……毒の種類が特定できません。この国の物ではない、異国のものではないかと思われます」
「では……この袋の中の薬草を使ってみて」
 ドレスの中に手を突っ込んで、布袋を取り出す。ジャスミンが「はしたない!」と咎めたが、この際それは聞き流す。
 ざっと袋の中身を見たジュリアンは何も言わず、ジャスミンを助手にしててきぱきと薬草を煎じ始めた。
「ヴェロニカさま、これはどうやって使うかご存知ですか?」
「……葉を小さくちぎって液体につけるの」
「ああ、なるほど……」
 ビアンカが作ったものと同じ香りがする液体を、ゆっくり飲ませること数度。
 フィオの荒い呼吸が少し落ち着き、痙攣もおさまってきた。
「……峠は越えたと思われます。あとは体力が持つかどうか……」
「よかった……。ジュリアン、ジャスミン、ありがとう。フィオ、頑張るのよ……」
「いえ、ヴェロニカさまのお持ち下さった薬のおかげです」
(ビアンカ、ありがとう……)
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