王女・ヴェロニカ
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ヴェロニカが立ち去った直後、宮殿へ戻ろうとしていた一行が再び刺客に襲われたのだ。
騒がしさとビアンカの悲鳴に人々が駆けつけた時、背を斬られたビアンカが血だまりに倒れ、ビアンカを守るようにしてセレスティナが倒れていた。
フィオの部屋に詰めていたジュリアンが直ちに呼ばれ、最新の技術を駆使して緊急手術が行われた。
何時間にも及ぶ大手術は、国内でも初めてのことだ。
「お二人とも、手術は成功しました。ビアンカさまはじき意識がもどるでしょう。しかし……セレスティナさまは体力がもつかどうか……」
なにせ、セレスティナは先日毒を盛られたばかり、本調子ではない。
青白い顔の王妃は厳重な警備のもとで医師団がつきっきりで看病にあたっていた。
手術から五日が過ぎたころには、セレスティナの頬に赤味がさし、夫であるコロン13世や娘・ヴェロニカの声に反応するようになっていた。
誰もが、王妃は助かったと思っていた。
それなのに。
「セレスティナさまがお亡くなりに!」
唐突に、崩御の知らせが王宮を駆け巡った。
「そんな馬鹿な!」
「母様!」
転がるようにしてコロン13世とヴェロニカが駆けつけた病室は、血の海だった。
廊下やベッド回りを警備していた兵も、医師見習いの青年も、侍女たちも、全てが惨殺され、セレスティナ妃の胸には短剣が突き刺
さっていた。
「う、うそだ……母様! 母様!」
「セレスティナ、返事をしてくれ、セレス、セレス……!」
王は、最愛の妻の体を抱きしめ、咆哮した。
「……犯人を捜せ! 最初にセレスティナとビアンカを斬った者はまだ見つからぬか! 何としても探し出すのだ!」
嘆く父の傍で、ヴェロニカは唇を噛んで涙をこらえていた。
「父様……」
「……なんだ?」
「曲者がまだ……捕まっていません。宮殿へお戻りください」
「ヴェロニカ……?」
「王子、正妃が相次いで狙われたのです。王が狙われない保証はありません。わたしが、お部屋まで警護いたします」
ヴェロニカは、母の胸に突き立った短剣を抜こうとした。だが、がっちりと組まれた手が、剣を抜くことを拒む。
「ちょっとまて、ヴェロニカ。このままにしておこう」
「短剣が胸に突き立ったままなんて、母様が気の毒です!」
「いや、このままで良い。戻るぞ」