王女・ヴェロニカ
 だがしかし、彼らの厳しい警戒の目をかいくぐって、さらに側室が一人殺されているのが発見され、その翌日、今度は庭の噴水に近衛騎士隊に所属する二人の遺体が捨てられていた。
 事件があった日にセレスティナとビアンカを最も近くで護衛していた二人だ。
 王宮の地下にある遺体安置所で部下の二人を検分した近衛長官は、深い溜息をついて、ジュリアン医師を呼んだ。
「医師どの……診てください」
「……曲者はかなりな腕前の持ち主だと思いますが……長官、いかがでしょう?」
「うむ、そのとおりです。二人とも急所を一撃でやられています。応戦した様子もなければ、更に不審なのは殺されたのがつい先ほど。なぜ彼らは殺されなければならなかったのだ?」
 首をかしげる近衛長官の傍で、ジュリアンは、刀傷ではない遺体の特徴に気付いた。
(……この二人は毒物を盛られた、いや薬物中毒だったのでは……?)
 薬物中毒になった近衛隊隊員など、いまだかつて聞いたことがない。
 近衛騎士隊は、この国の武官のエリートだ。厳しい剣の修行に耐え、専門の学校で勉強し、そして人柄・思想重視で選ばれる。
 この国の男の子たちが、一度は憧れる職業だ。
 そんな彼らが、薬物に手を出したということが、信じられない。
(だが……彼らの命を奪ったのは薬ではない。剣であることに間違いはない……)
 書類上、死因は刀剣による斬殺と書くしかないだろう。

 どうも釈然としないものを抱えたまま、ジュリアンは報告書をまとめにかかった。
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