王女・ヴェロニカ
ヴェロニカの巡回
:1:

 セレスティナ王妃の葬儀の後は、側室や姫君たちの葬儀が続き、その後は、兵士たちの合同葬儀があった。
 犯人捜索に駆り出された兵たちがみつけたのは、襲撃犯ではなく同僚の遺体だった。
 その数十を超えたため、王妃を守って殉職した兵士として国葬することを王が発表したのだ。
 彼らは、いずれも惨い最期を迎えている。
 苦悶の表情を浮かべた者もいれば、恐怖に歪んだ表情の者もいた。
 そして彼らは、亡骸を放置されていた。それは中庭の茂みだったり、ワイン蔵の奥に隠さていたり、枯れた井戸に捨てられていたものもあった。
「誰がこんな酷いことを……。でも狙わているのは後宮の人間だけじゃないってことよね……?」
 ヴェロニカが形の良い眉を寄せ、王や調査にあたった面々も首をかしげた。
(傷の具合から見て……相当な手練れが二人いるわね……)
 一人は、首筋や腰をすっぱり斬るのが得意な人物。武器は細身の剣。
 もうひとりは、突き技を得意としている人物。武器は両手剣のようなものだ。
 両手剣で突く、という技を得意とする流派があるのを、ヴェロニカは知っている。実際に競技会で対峙したこともある。
 だがそれを今、口にするわけにはいかない。
「……敵には相当の手練れがいる。不審人物を見ても手を出してはいけないと、長官に伝えなくては!」
 
 葬儀一切を取り仕切る立場にあったヴェロニカは多忙を極め、軍を率いて遠征するどころの騒ぎではない。
 だが、葬儀の合間に後宮の屋根に座って中庭を見下ろすという休憩方法を編み出していた。
(今、わたしにできることはなんだろう……?)
 いつもは、側室や幼い姫——妹たちだが、ほとんど交流はない——が駆け回る中庭は、立ち入り禁止になっている。
 天使の像から吹き上がっていた噴水も止められてしまい、鯉がゆったりと泳いでいる以外、動くものはない。
(空位になった正妃の座は、どうなるんだろう……)
 父の隣で母が微笑んでいるのが当たり前だった。その席に他の女性が座るのかと思うと若干複雑だが、いつまでも正妃の座があいていて良いわけはない。
 かといって、ヴェロニカが気に入った人を座らせるわけにもいかない。
「わたしがここで考えていても、仕方ないわね」
 屋根から回廊に飛び降りると同時にドレスの中から棍を引っ張り出す。
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