王女・ヴェロニカ
「ぐーれーすさーん、ねえたまが、よんでましゅ」
「ねえさまが、グーレース長官をさがしていますー!」
 子供たちに囲まれて戻ってきたグーレースは、嫌な顔一つせず中庭の護衛についた。
 久しぶりに明るい声が後宮に響いていた。
「グーレース、一日に一度、二日に一度でもいいの。フィオたちをここで遊ばせてあげたい」
「ふむ……」
「魔の手は怖いけど、建物に閉じこもるのはよくないと思うの。みんな、育ち盛りだし……」
「……確かにその通りですが……」
「王子・王女と生母と侍女。みんなで一緒に移動するの。そこを襲われたらたまらないけど……わたしが命に代えても守る」
 愛用の棍を握る拳が白くなる。それをみた長官は、くっくっと喉の奥で笑った。
「ヴェロニカさま、そのように力いっぱい握ると、いざというときに動けませんぞ」
「あ、そうね……」
 グーレースは走り回る王子・王女を見ながら微かな笑みを浮かべていた。
 これまで、王の子供たちは、同じ後宮に暮らしていながらほとんど交流がなかった。グーレースはそれを寂しいと思っていた。
 だが今回の事件で、子供たちは共に遊ぶようになった。
「……王にお話ししてみましょうかな」
「お願いします」
 ヴェロニカは軍の最敬礼で挨拶をした。
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