王女・ヴェロニカ
「い、いや、近衛長官がそんな……」
 ぴくん、とグーレースの眉が動いた。
「……本気なのね?」
「ヴェロニカさまの御年なら、とっくにご結婚なさってお子様がいてもおかしくないお年です。年相応の上流階級の貴婦人の振る舞いを覚えていただきます」
「そんな無茶な!」
「淑女らしからぬ振る舞いを見つければ、僭越ながら、このグーレースがビシビシと指導させていただきます」
「……そんなこと、王がお許しになるはずないでしょう?」
 ヴェロニカは救いを求めて勢いよく王を見たが、王は手を叩いて立ち上がっていた。
「グーレース! 名案であるぞ!」
「王よ、このわたしがヴェロニカさまの周囲をうろつくこと、わたし如きの者が立居振舞を指導することをお許しいただけますか?」
「許す、存分に指導してやってくれ! そなたの家柄は正妃も大臣も多数輩出する素晴らしい名家。何より、グーレースの母君も、そなたの奥方も実にすばらしい夫人であった……」
 昔話に花を咲かせる二人の横で、偉いことになった、とヴェロニカは蒼ざめた。
 だが、グーレースは全く別のことを思っていた。
(思わぬ展開になったが、これでヴェロニカさまをお近くでお守りできる……)
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