王女・ヴェロニカ
「……うむ……陸軍がここまで強くなったのも、ヴェロニカのおかげであるな……」
「されど、一国の軍隊をビシバシと鍛え上げて、自ら軍を率いて勝ち続ける王女など、近隣諸国で聞いたことがございませんがな……」
「うむ、とんでもない猛女であるな、ヴェロニカは。誰に似たのやら。これではあの男でも逃げ出すであろうなぁ……」
 グーレースと父が何度目とも知れないため息をつくのを、ヴェロニカは涼しい顔で聞き流していた。
(誰のことか知らないけれど……そんな型破りな男、こっちからお断りだわ!)
 鼻息も荒く乱暴にサインをしたおかげで、羽ペンがぽっきりと折れてしまった。
「もう! すぐに折れる羽ペン、不良品じゃないの?」
「ヴェロニカさま。力を入れ過ぎですぞ……。それ、もっと優しく握って……」
 むむむ、とヴェロニカの眉間に皺が寄った。
「……ヴェロニカ」
「はい」
「……男も羽ペンも優しく扱わねばならぬものと心得よ」
「なんですか、父様。唐突に妙なことを……」
「男は繊細なもの。傷つきやすく脆いのだ。ことに男の象徴はデリケートにできている」
 は!? とヴェロニカが首をかしげた。
「そのように鼻息荒く握りしめようものなら、男は驚いて縮こまって……」
 ごほんごほん、とグーレースが咳払いをした。だが王と王女は何を勘違いしたのか、そろいも揃ってグーレースにコーヒーカップを差し出した。
「喉をやられたか、長官」
「グーレース、風邪?」
「……いえ、喉は問題ありません。それよりヴェロニカさま、ご指導申し上げます」
「なに?」
「椅子の上で胡坐をかいた上に頬杖をつくとは何事ですか!」
 きゃー、とヴェロニカの悲鳴が執務室に響き、王が苦笑した。
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