王女・ヴェロニカ
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 グーレースが始終ヴェロニカに張り付いて一挙一動に口を出しはじめて数日。
 ヴェロニカとグーレースの巡回は後宮だけにとどまらず、王宮内ですっかりおなじみになっていた。
「ヴェロニカさま、スカートをそのように捲り上げて走るとは何事ですか」
「……いいでしょ、この方が早いし、誰も見てないし!」
「見ておりますぞ、妹君が!」
 グーレースの視線を追えば、幼い少女たちが盛大にスカートを捲り上げて、棒切れを掴んで走っている。
 しかも、衛兵を殴りつける子もいる。
「……おわかりいただけましたかな、ヴェロニカさまの挙動は、良くも悪くも、後宮に多大なる影響を与えるのです」
「くぅぅぅ……」
 スカートの裾をきちんと直して、ピンと背筋をのばしてゆったりと歩く。
「……こうすればいいんでしょ?」
「立派な王女殿下のお姿であらせられます」
 うやうやしく敬礼されて、ヴェロニカはぷくっと頬を膨らませた。

 「ヴェロニカねえさま! お待ちしていました」
「お庭に、遊びに行きましょう!」
 幼い妹たちが、転がるように走ってくるのが可愛い。
「今日は何をしましょうか」
 言いながら、ヴェロニカはドレスの腕を捲りあげて仁王立ちになった。ヴェロニカの首筋を、妙な冷気がなぞったのだ。
 横を見れば、グーレースはヴェロニカへの指導と見せかけて、すぐに応戦できるように重心を移動させている。
「ヴェロニカさま、扇子はどうなさったのですか」
「え、あ、あれ? わたしどこへやった……?」
 扇子をさがすふりをして、中庭に視線を走らせる。後宮の中庭だというのに、剣呑な殺気を放つ者がいるのだ。
 刺客が、いる。中庭の最奥、ツツジの生垣の傍に潜んでいる。人数はそう多くない。一人か、せいぜい二人だろう。
「グーレース、市民の遊びの……剣、いや、鬼ごっこ、いや、な、なわ……そう! 大縄跳びというものを知っている?」
「あ、ああ、ああ……それならば存じておりますぞ。たしか太い縄をぐるぐると回しましてな、その中で飛び跳ねるのです」
「一人ずつ飛ぶの?」
「一人ずつ飛ぶ方法もありますが、何人も並んで同時に飛ぶ方法もあります。こちらは団結力も必要となりましょう」
 フィオが、やってみたい、と手を挙げた。
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