王女・ヴェロニカ
 大喜びの弟妹が中庭をでて回廊へと無事進んだのを見届けたヴェロニカは、ドレスの中から棍を引き抜いて走り出していた。
「どこから入り込んだ、曲者!」
 繰り出した棍は、正確に刺客の喉を突いた。
 ぐえぇ、と濁った叫びをあげた刺客は大きくふきとばされて、地面に背中を叩きつけた。刺客とて油断していたわけではない。
 刀を抜いて走っていたのだが、ヴェロニカの方が数段はやかったのだ。
 痛みで顔を歪めた刺客は、起き上がろうとしたところを再び地面に押し戻された。
 棍が、口の中に突っ込まれたのだ。
「……自害することは許さない。聞きたいことが山のようにあるの」
 ヴェロニカが睨みを利かせているところへ、縄を手にしたグーレースが駆けてきた。
「ヴェロニカさま、縄をお持ちいたしました」
「ありがとう」
 棍を突き付けたまま、ヴェロニカが立つように促す。それがなかなか難しいらしく、刺客は無様に地面でもがいた。
「ええい、じれったいわね!」
 ヴェロニカは乱暴に刺客の胸ぐらを掴みあげて立たせ、グーレースの方へ突き出した。
「縛って。絶対に死なせない。この男をわたしの部屋へ」
「……ヴェロニカさまのお部屋へ?」
「ビアンカとジャスミンを監視につけて頂戴。あの二人なら、この男を絶対に死なせたりしないから」
 承知、と呟いたグーレースは、刺客の鳩尾に拳を叩きこんで気絶させ、猿轡を噛ませてから厳重に縛り上げた。
「まぁ、見事な技術ね! 今度、わたしにも捕縛術や超接近戦を教えてちょうだいな」
 王が良い顔をしないだろうな、と思いながらグーレースは「かしこまりました」と小さく呟いた。
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