王女・ヴェロニカ

:2:

 二人が神殿に到着すると、近衛隊と侍女がすかさず近寄ってきた。
 乱れた髪や服装を綺麗に直され、威厳が整ったところで近衛隊の一人が声を張り上げた。
「ヴェロニカ第一王女殿下、テオフィオ第一王子殿下、王の婚礼の儀にご出席されます!」
 二人が祭壇の前に姿を現すと、どおっ、と民が湧いた。
 それに手を振って答える。
「ヴェロニカ、お前はわしより人気があるな」
「父さま、それはわたしが、たびたび王宮を抜け出して町で遊んでいるからです」
「知っている。たびたび無断で家をあける娘を案じる親の身にもなってくれ……」
 はぁ、とため息をつく父親の後ろに、ヴェロニカとフィオは座る。
「ヴェロニカねえさまも、いつかお嫁に行っちゃうの?」
「さぁ、どうかしらねぇ? わたしはあんまりそういうことに興味がないのよね」
 その発言が、父親の耳に入ったらしい。途端に王が深い溜息をついた。
「セレスティナ、我々は娘の育て方を間違えたようだ……」
「あら陛下、晴れがましい婚儀の場だというのに眉間に皺はいただけませんわ。王たる者、常に笑顔ですよ」
 無理やり笑顔を浮かべて来賓席をみた王が、ぽん、と膝を打った。
「そうだ、セレスティナ! 今日はヴェロニカの相手を探すにはいい機会だぞ。どうだ、良い男はいないか? あれはどうだ?」
「あなた、ヴェロニカがわたくしたちが決めた相手と結婚するような娘だと思いますか?」
 ちらり、と娘を見た父親は、頭を振ってため息をついた。
「……ヴェロニカ、身分や国籍は一切問わぬ。お前を貰ってくれるという奇特な人を、どうか一日も早く連れてきなさい」
「善処します。いずれそのうち……」
 適当に答えたヴェロニカに父がため息をつき、再び来賓席に目を走らせる。
「なあ、フィオ。ヴェロニカはどんな男がタイプなのか、知っているか?」
「はい。ねえさまより強くて賢くて品があって、頼りがいのある男です。心身ともに軟弱な坊やはだめなんですって」
 はぁぁぁ、と父はため息をついた。そんな男など、思い浮かばない。
 賢い男はいるだろうが、「強い」というのが頂けない。
 ヴェロニカの棒術の腕前は国内で五本指に入るし、剣術も先日のトーナメント戦で優勝トロフィーをかっさらった。
 個人戦のみならず、陸軍での戦歴も輝かしい物をもっている。
< 4 / 159 >

この作品をシェア

pagetop