王女・ヴェロニカ
 黙って王の方へ体を向けて、話を聞く姿勢をとった。こうなると、ヴェロニカもマイクもそれに従わざるを得ない。
「……軍事大臣、娘が消えた、と口走らなかったか?」
「あ、ああ! そうです。ビアンカの姿が忽然と消えてしまったのです、陛下! さらわれたのかもしれません。いや、殺されたのかも! 嗚呼我が最高傑作の娘・ビアンカ!」
 あああああ、と舞台上で絶叫する役者のようなエンリケを見て呆けていた一同だが、なんだって!? と、王とヴェロニカが声を揃えた。
「探したんでしょう? ビアンカの生家や親戚のお家も探した? 子供だったビアンカが好きだった場所とか、家族で訪れた場所とか!」
「今日は二度部屋を訪ねたが二度とも空っぽで、あの子が行きそうな場所は全て国内外問わず使いを出した。だが、どこにも姿がない! 誰か、あの子の行方を知らないか? 優しく賢いあの子のことだ、万が一ということもある。近頃も、何やら酷く心を痛めていて、精神的に不安定で……」
 わあわあと喚いていたエンリケが、ぐへっ、と妙な声を出した。
 慌ててそちらをみれば、マイクがエンリケの喉を片手で締め上げている。その目は、かつて見たことがないほど鋭く、ヴェロニカが思わず息を呑んだくらいだ。
「……お前らが自分でビアンカを隠したんじゃねぇのか?」
「ぶっ、無礼な! 貴様、ビアンカを呼び捨てにするとはいい度胸だな。我が娘は王の側室であるぞ」
「それがどうした? 俺はこの国の人間じゃない。……王族やお偉方なんぞ、糞喰らえだ」
「貴様っ……」
 さらにマイクが力を込めたところで、グーレースがマイクの腕をそっと握った——ように周りには見えたが、マイクは腕をおさえて顔をしかめた。
「……グーレース師匠……いてぇよ……」
「我が愛弟子は、誰もかれもがやり過ぎる傾向にあって困ったもので……」
 マイクの手から救い出された軍事大臣は、化け物でも見るような目つきでマイクを見た。
「お前はっ……もしかして……」
「ああ!? 俺はただのマイクだぜ」
「……エンリケ。マイクが忠誠を誓っていたのはセレスティナだ。それは生涯かわるまい。マイクを召し抱えようなどとは思わぬことだ。さて、マイクは王宮に滞在してくれるとありがたい」
「おう、いいぜ」
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