王女・ヴェロニカ
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「ビアンカ捜索隊」は全員が後宮内部をよく知っている。
タッタカ、タッタカと軽快な足取りであちこち探して回る。
「……ヴェロニカさま、いくつかお尋ねしてもよろしいでしょうか」
それまで黙ってヴェロニカに従っていたジャスミンが、たまりかねたかのように手を挙げた。
「ん、なーにー?」
「ひとつ、なぜヴェロニカさまは侍女のドレスをお召しなのですか。というか、どこで手に入れたのですか?」
軽快に走っていたヴェロニカの足が、わずかにもつれた。
「それは……うん、えっとね、庭に落ちてたのをちょっと拝借したの」
そんなわけないだろう、と無言の視線が一斉にヴェロニカに突き刺さる。
「だ、だって! ドレスは重たいしコルセットは苦しいから、こっちの方がいいの! 気にしちゃダメ、これがわたしの正装ってことで! よし、王女命令よ!」
「ヴェロニカ……そんな馬鹿な命令、誰も従わねぇよ……」
マイクがため息をついてグーレースが大きく頷き、フィオには、
「ねえさま、恥ずかしいまねはやめてください……」
と嘆かれ、ヴェロニカは膨れっ面になった。
「……で? おねーさん、質問はまだあるんだろ? つーか、本題はそれじゃねぇだろ?」
「はい。この男は何者ですか。なぜ、この国の人間ではない男が、後宮を迷わず走るのですか。おかしいでしょう?」
「俺はただのマイクだ。過去はわけがあって封印しているが、怪しい男じゃないぞ。今はデカい船団を率いて貿易商をしている」
ジャスミンが鋭い目つきでマイクを眺めた。
「ますます怪しい……」
それもそうか、と、苦笑したマイクが、ヴェロニカとグーレースと頷き合ったあと、ジャスミンの肩を引き寄せた。
「実は俺はな……」
「汚らわしい! 軽々しく女性に触るなど、なんと破廉恥な恥さらし!」
「は、ハレンチだと!? こっ、この俺のどこがハレンチだ」
「見れば見るほど破廉恥ですわ! わたくしに近寄らないでくださいます?」
なんだと!? と目を吊り上げるマイクの肩を、ヴェロニカが叩いた。
「マイク、落ち着いて……ジャスミンに本性を伝えるんでしょ?」
「やめた! こんな女に軽々しく教えてやるものか!」
「ええ、教えていただかなくて結構ですっ! みなさぁん、破廉恥変態男がヴェロニカさまのおそばに……」
「なんだとぉ!?」