王女・ヴェロニカ
 つーん、とそっぽを向く二人の間では、グーレースがため息をつき、ヴェロニカがオロオロし、フィオが怒りだした。
「みんな、まじめにビアンカをさがしてくださいっ! ビアンカが、こわいよ、いたいよ、ってひとりで泣いているかもしれないのに、平気なの?」
 零れそうな涙をぐっとこらえているのだろう。フィオの拳は小さく震え、唇もきつく噛みしめている。
「……フィオ、お前の言うとおりだ。悪かった。真面目にビアンカを探す」
「そうね。グーレース、ここはバラバラに動いたほうがいいと思うの。東西南北、手分けして探しましょう。フィオには、マイクがついてくれるのよね?」
 異議あり、とジャスミンが素早く声をあげた。
「いけません。若くて怪しげな破廉恥男が王子一人を連れて後宮内をちょろちょろ動くのは問題があります。それに、ヴェロニカさまが襲われたらどうするのですか」
 当然追い払う、と棍を振り回すヴェロニカだが、グーレースとマイクは難しい顔をしていた。
「……ヴェロニカとフィオは別行動にしろ。二人一緒に襲われることもある」
「え、マイク、そこまで心配する必要がある?」
「万が一ってこともあるだろ。ここは血みどろ後宮だからな。油断ならねぇ」
 フィオが不安そうにヴェロニカのスカートを握った。その手を優しく握ったヴェロニカは、弟に目線を合わせて腰をかがめた。
「フィオ、大丈夫。わたしやグーレース、マイクにジャスミン、みんながあなたを守るから」
 だがフィオは首を横に振った。
「だめです、犯人はぼくを狙っているかもしれません。だったらぼくは、ねえさまを巻き込まないように、お部屋でじっとしていたほうがいいです」
「フィオ……」
「グーレース、ぼくをお部屋まで送ってくれますか?」
「畏まりました、王子殿下」
「マイクあにうえ……ビアンカを探してください。ヴェロニカねえさまを、よろしくお願いします」
 ぴょこんと頭を下げたフィオが小走りで立ち去るのを、ヴェロニカはぼんやりと見送った。 
(……ちょっと、寂しい……)
「へー、いい男に育ちそうだな。しかし、いかにも良家のお坊ちゃまって感じだよなー……あんなので将来大丈夫か? なんなら俺の船に乗せていっちょ鍛えてやろうか?」
 振り返ったグーレースと、ジャスミンが、「あっ」と思った時には、マイクは地面に崩れ落ちて悶絶していた。
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