王女・ヴェロニカ
 もちろん、ヴェロニカの武器が唸りを生じてマイクを襲ったのだ。
「かはっ……暴力反対……」
「ふん! 王女さまに打ち据えられたのよ。レアな体験だと思って感謝しなさい!」
 出来るか馬鹿……と唸るマイクを、ジャスミンが気の毒そうな目で見た。
「くっそ……グーレース師匠、弟子の教育を間違えただろ……この暴力女……」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 マイクが悶絶しているころ、ビアンカは本当に、危機的状況にあった。
 両手両足を荒縄で縛られ、見知らぬ男の肩に担がれているのだ。
「わたくしは、側室です。王女ではありません!」
「嘘ばっかり言うなよ。この王宮で武器を持ち歩いて咎められない若い女っていったら、王女くらいだろ」
「それはそうですけれど……わたくしは王女ではありません。ビアンカです。わたくしをただちに解放しなさい」
「ならもっと有得んだろ。ビアンカといえば軍事大臣が何より大事にしている娘だろ、そんな娘が父親を殺そうと付け狙うはずないからな、がっはっは!」
「ですから、わたくしは実の父を殺そうとして待ち伏せていたのです! それをあなたが、邪魔をした!」
「そんな言い訳が国際社会で通用するわけないだろう。あんたやっぱり王宮で育てられたお嬢様なんだな、がっはっは! 可愛いじゃないか」
 大口をあけて豪快に笑う若い男は、どうやら隣国の王子らしい。
 数少ないお供をつれて王宮へ密かに乗り込んできたらしいのだが、何を思ったのか『噂の暴れん坊王女』を浚うことにしたらしい。
「だいたい、歴戦の猛者であるヴェロニカさまが、あなた如きに捕まえられるわけないでしょう!」
「はははは、威勢のいい女は嫌いじゃないぞ。だが、生憎あんたは俺の好みじゃない。俺の好みは、もっとグラマラスでもっと勇ましい女と、美青年だ。ヴェロニカという王女はもっと勇ましい女将軍だと聞いていたが、やっぱり王女だな、この程度か。ちょっとがっかりしたぞ。うわっはっは!」
 ビアンカは深い深い溜息をついた。
(まったく会話が成立しないわ……どうしましょう……?) 
 このままうかうかと浚われてしまっては、国の一大事に繋がることは間違いない。
 かといって、馬鹿力で話が全く通じない男の腕からどうやって逃げればいいのか、皆目見当がつかない。
「よし、無事に王宮の外へ出られたな……ってあんた、剣や装飾品が減ってねぇか?」
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