王女・ヴェロニカ
「……剣はあなたが取り上げたんじゃない! 装飾品はもともと少ないわよ!」
「そうだったかな……? 目印に落としたんじゃねぇのかぃ?」
「そんなことする余裕なかったわ」
 赤茶色の瞳でじっと見つめられ、ビアンカは内心焦った。だが、男はビアンカの焦りには全く気付かなかったらしい。
「よーし、こっからは馬車で行く。国境警備隊を強行突破する。大人しくしていろよ、王女さま」
 どさりと、まるで荷物のように馬車の荷台に放り投げられて、ビアンカは小さく悲鳴をあげた。
「げへへ、可愛い声がだせるじゃねぇか。綺麗な脚だ。……でも俺の好みじゃねぇんだよな……」
(どうしよう……ヴェロニカさま、助けて……)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 そのことを、ヴェロニカたちが知ったのは数日後のことだった。
「ヴェロニカ! 古めかしい矢文が届いたぞ!」
 ヴェロニカが駆けつけた時、王の執務室には旅装のグーレースとマイクとジャスミン、蒼ざめたビアンカの家族が揃っていた。
 ビアンカが必死で残した手がかりをもとに、ビアンカ捜索隊は国外へと出発しようとしていたのだ。
「陛下……文を読んでくだされ」
「ああ……王女は預かった。王女を返してほしければ、去年奪った土地を返却せよ……と書いてある」
 差出人は、隣国の王子イェンス・ノア・アシェール第三王子。
「まさか……ビアンカはわたしと間違われたの?」
 巻かれた羊皮紙の間から出てきた髪は、見覚えのある色だ。
「……我が娘を浚うとは許し難し! 力づくで取り戻して見せようぞ!」
 エンリケの一族が、殺気立った。
「王よ、我が娘は我が一族が取り戻す! 手出しは無用!」
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