王女・ヴェロニカ
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老いた王に若い娘、となれば古今東西、嫁ぐ事情はたいてい決まっているだろう。
好色な王が娘を見初め、泣く泣く差し出されるか。
権力や国のために、王に差し出されるか。
ビアンカの場合は、後者である。ビアンカの父親、ラロ・サジャス・エンリケは野心に満ち溢れた男だ。
彼は元々、隣の小さな国・リッサンカルア王国の貴族で、国防軍大将の地位にあり、前線で指揮をとっていた。
だが、母国がコロン一三世に攻められた折に、兵をごっそり率いて、悠々とリーカ王国側に寝返った。
寝返った理由は至極簡単だった。
「このまま小国・リッサンカルアにいるよりも、リーカ王国で罪人として暮らした方が良い暮らしが送れる。だからそちらに住むことにした」
そんな男のどこが気に入ったものか、コロン十三世は彼を破格で召し抱え、一族郎党、家臣に至るまでをごっそり呼び寄せて、彼らにリーカでの貴族の地位を与えた。
それに感謝したかどうかは知らないが、以来、エンリケは大人しくコロン一三世に仕え、自力で軍事大臣の地位にまで上り詰めた。
しかし、それだけでは飽き足らなかったらしい。
王家との繋がりを強いものにしようと運動を開始した。そして、それには自分の娘を嫁がせるのが一番だ。
だが王は、美しく賢い正妃のほかに、何人もの側室を持っている。少しくらい美しい娘では見向きもされない——。
そう悟った男は、わざわざ東方の村の美しい娘を何人か選び、自分の側室にして、せっせと子作りに励んだ。
その結果、東方の血が色濃くでた娘が誕生したとき、父は大喜びした。
その娘はビアンカと名付けられ、幼いころから王の妃となるべく教育を受けて育った。
ビアンカが婚儀の前夜、使者とともに「嫁ぐ前の挨拶」に来た時、エンリケは上機嫌だった。そして娘の髪を撫でながら、
「お前は一日も早く王の子を産め。わたしは王の祖父となって権力をふるうのだ」
と、言ってのけた。
驚くビアンカに、父は、燃え盛る暖炉の前でワイングラスを傾けながら、さらなる野望を熱っぽく語って聞かせた。
「聞け。お前は近いうちに正妃の座につくことになる。お前のように美しく賢い娘を側室のままでは終わらせぬ、安心せよ」
「お父様……それはどういう意味ですか……?」