王女・ヴェロニカ
進軍。そして、過去
:1:

 粛々と行進は続く。石畳が敷き詰められた市街地を抜けると、あたりは一面の緑だ。
 田畑が広がり、果樹園があり、豊かな実りが見て取れる。
 かつてマイクがこの国で暮らしていたころは、このあたりは茶色の土が剥き出しで、荒れ地だったはずだ。
「緑になったなー……」
 このまま北上して『黒い森』を抜け、国境のヴェッテローザ山脈
を越えれば、目的地・アシェール王国だ。
「乾燥した土地でも育つ植物を近隣の国から集めてきて、そのときに、農業に詳しい人たちに移住してもらったの」
「なるほど考えたな。暴れ川もあっただろ、年に何度も氾濫する厄介な奴……」
「うん、それは今も課題なの。川幅を広くしたりカーブを緩やかにしたり、あれこれ手を加えたんだけど、年に一度はこのあたりが水浸しになっちゃう」
 家屋は、高床式の建物にすることで被害を抑えることができた。
 だが、水浸しになる田畑はどうしようもない。収穫直前のものがごっそり流されてしまっては、民は生きていけなくなる。
 その補償ができるように制度を整えるように議会にかけあっているのだが、まだまだ時間はかかるだろう。
「水害に強いものが出来つつあるけど……まだまだ時間はかかるわ……」
 話しながら進むあいだも、ヴェロニカの眼は一か所にとどまっていない。
 あちこち視線を配り、気を配っている。
「ヴェロニカさま、ヴェロニカさま!」
 ふいに、子供たちの声がした。そちらをみれば、馬に乗った子供たちが数人、駆けてきている。
 あ、とヴェロニカがうれしそうな顔をして大きく手を振った。
「ハンナにアニエラ、こんな遠くまでわざわざ来てくれたの? そっちにいる男の子は、アーロンとブルーノの兄弟ね? 大きくなったわね」
 巧みに馬を操った子供たちは、籠いっぱいのリンゴをヴェロニカに手渡した。
「お馬さんの上で、たべて下さい」
「ぼくたち、これを渡すために村の代表として来ました!」 
 にっ、と笑ったヴェロニカは、リンゴを一つ手に取ると、ガブリと勢いよく齧りついた。あたりにリンゴの甘酸っぱい香りが漂う。
 ぐるる、とマイクのお腹が鳴った。
「うん、美味しい! 年々美味しくなるわね。はい、マイクもどうぞ」
 手渡されたリンゴに、マイクも齧りつく。
「おお、美味い! 甘みと酸味が絶妙だな。歯ごたえも良い……いくらでも食えるぞ」
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