王女・ヴェロニカ
「あなたたちが、ビアンカを苛めてはならないと命令すれば、たしかにビアンカは助かります。しかしビアンカは、自分で理不尽を跳ね除けるでしょう。強い娘です。けれど……ビアンカの心が折れそ
うなときは、友として手を差し出してあげるのですよ」
 その言葉通り、ビアンカは周囲の雑音を跳ね除け、美しく逞しく成長していった。
 だが、ビアンカの心はすっかり頑なになり、警戒心の塊の野良猫のようになっていた。
 そのビアンカの心をふっと動かしたのが、リンゴだった。
「ビアンカ、リンゴは好き? 今、近くの村でこれを育てようと思って改良しているの。よかったら食べてみない?」
 籠いっぱいの真っ赤なリンゴを、ヴェロニカは差し出した。
 ビアンカはそれを手に取って、かぷり、と齧りついた。
「……おいしい……」
「ふふ、よかった」
「わたし……リンゴがすき……」
「じゃあ、好きなだけ食べてよ! こんなにたくさん、わたし一人じゃ食べきれないから。クローゼットにでも隠して、好きな時に食べちゃえ!」
 ビアンカの大きな瞳から、涙がこぼれた。
 泣きじゃくるビアンカの傍に、いつの間にかセレスティナが現れ、ビアンカの髪を優しくなでていた。
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