王女・ヴェロニカ
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ヴェロニカ隊は、かなりなハイペースで乾いた砂漠を進んでいく。
所々にあるオアシスや町には必ず寄って水分と食糧を補給するため、どうしても日数がかかる。
だからと言って、この作業をおろそかにするわけには、いかない。
ビアンカが浚われて一か月以上が経っている。
第一陣の奪還作戦が失敗した以上、彼女の身がどうなっているのか、わからない。
その上、エンリケ隊の影もかたちもないし、町に寄った形跡もない。
(ビアンカ、どうか無事でいてね……)
指揮官にも兵にも、焦りが見え隠れする。
だが、率いているのが人気も実力も支持率も抜群の『歴戦の王女』だからだろうか、それとも、王寵愛の側室を奪い返すという任務に燃えているからだろうか。
どことなく軍全体が華やかで、兵の表情が明るいことに、マイクは驚いた。
そして、ちらちらと周囲を見ては、首を傾げた。
ヴァロニカ隊は、王から預かった禁軍兵士一万に、ヴェロニカがいつも率いている陸軍兵士一万、そこにヴェロニカの私兵が加わった三万のはずである。
だが、どうみても三万を超えている。
「マイク、珍しく落ち着きがないわね」
「なあ、ヴェロニカ」
「ん?」
「城を出た時より、兵が増えてないか?」
戦いに赴くのが嫌で逃げ出す兵というのは、どこの国でも話に聞く。
だが、進めば進むほど兵が増えると言うのは聞いたことがない。
「民兵と傭兵が次々加わってくれたのよ」
「民が、自主的に戦列に加わるのか?」
「そうなの。彼らはとてもよく働いてくれるの。そんな彼らだから、わたしは無傷でみんなをお家に帰したいの」
「……だから、お前の戦は、短期決戦、被害は最小限なのか」
こくん、とヴェロニカが頷いた。
ヴェロニカの戦い方は、決まっている。
開戦と同時に敵の本陣めがけて、大将自らが突っ込んでいくのだ。側近や副将たちは、大将が取りこぼした雑魚を片付けるのが仕事だ。
ヴェロニカの武勇は鳴り響いているので、ヴェロニカが棍を取り出すだけで敵兵の腰は引け、三人、四人と打てば、散り散りに逃げていく。
その後は、あの手この手で敵の大将をおさえ、外交に持ち込む。
長期戦や兵糧攻めを得意とする父王とは正反対だ。
「でも今回は事情が違うわ。ビアンカを奪還して、うちの両親に不埒な真似をする変態王子を徹底的に叩きのめさなきゃ気が済まないわ」