王女・ヴェロニカ
「とにかく、一日も早くジャジータへ行きましょう。町へ逃げ込んでしまえば、王子の追手も簡単には見つけられないでしょう」
 こくん、とビアンカは頷いて前を向いた。
(ノア王子、わたくしをこのような所に閉じ込めた恨みは忘れません)
 優しくてどこか甘いヴェロニカやコロン十三世は、この国を許すのかもしれないが、自分はノア王子がどうしても許せない。
「ハリー、リーカ王国へ一緒に参りましょう。一緒に、陛下のお傍で暮らしましょう」
 一瞬、ハリーの目が宙を彷徨った。
「それともハリーは、祖国を再建したいですか……? その……ハリーの国は滅ぼされて、王族は散り散りになったと聞きました」
 
 ビアンカは、まだ知らない。
 ハリーの国を滅ぼしたのが、リッサンカルア人だということを。
 皇太子であったハリーの兄は、リッサンカルアの後宮に捕らわれ、第二皇子だったハリーはこの国へ売られた。
 その兄を助けたのがコロン十三世、自分はヒーリアに助けられたが、それもヒーリアの従姉・ミラがコロン十三世の側室だったからだ。
 そしてハリーは知っている。自分の両親の首を斬り落とした男の娘が、ビアンカだということを。
 
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