王女・ヴェロニカ

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 マイクが目を覚ましたのは、妙な騒音と人の叫び声が夢に入ってきたからだった。
「う……?」
 納屋に押し込められたはずだ。
 だが周囲には明りが灯され、目玉を動かせば大きなテーブルには酒と料理が乗り、床には酔いつぶれたのか、男が何人も転がっている。
「……ここは……大広間か……? ヴェロニカ……ヴェロニカはどこだ……」
 体を起こそうとして視界がぐにゃりと歪み、薬を大量に飲まされたことを思い出す。
 同じ量を飲まされたとは思わないが、化け物のごとき女将軍だが薬物に抗体を全く持たないヴェロニカはひとたまりもないだろう。
 上体を起こすことに失敗したマイクの目の前に、サーモンピンクの塊が降ってきた。
「うお……!?」
「マイク、ごめん、大丈夫?」
 目線だけで何やってるんだ、と問えば、ヴェロニカが答える前に、丸太の如く太い腕が伸びてきて、ヴェロニカの体を乱暴に掴みあげた。
「きゃーっ、放せ、このクマ男!」
 たしか、頭、と呼ばれていた大男だ。もともと悪人面だったが、さらに醜い憤怒の表情になっている。
「この女! 若い女だと思って油断したぜ……。何人も殴り倒して奥まで入りこみやがって……怪我人の山じゃねぇか」
 空中でもがくヴェロニカの手には、布の袋がいくつも握られている。その一つが、マイクの目の前まで飛んできた。
 震える手でそれを掴んで、必死にジャケットのポケットに押し込んだ。
(……王立研究院で解析してもらえば……)
 これが、『白い亡霊』を生み出す薬物かもしれない。しかし、エンリケとこの組織が繋がっているという証拠がない。
 それに「買い手」が「作り手」に直接依頼しているとは限らない。間に何人もの仲介人がいることが、普通だ。
 この白い薬とエンリケが繋がっているのか、繋がっているとしたらどうやって証明したらいいのか——。
 マイクが回らない頭で考えていると、怖いもの知らずのヴェロニカが直球を投げた。
「ここで危険な白い薬物を作っているのは知っているのよ! どういうルートで誰に売っているのか、答えなさい!」
(あ、馬鹿ヴェロニカ……!)
 答えるはずがない。返事の代わりに、男のこめかみと腕に血管が浮きあがってヴェロニカの腹部に拳がめり込んだ。
「ぐっ……がはっ……最低ね。モテないでしょ」
「この女……死んでもらうしかねぇようだな……」
「お断りよっ……」
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