王女・ヴェロニカ
「たまたまエンリケさまがジャジータの町で怪しい奴と一緒の所を見ちまってさ。それをネタにエンリケさまに迫ったのさ。黙っててやるからビアンカさまを嫁によこせ、って。そしたらその日のうちに、兵士が乗り込んできて、俺は地下の隠し部屋にいたから助かった。それでジャジータまで逃げて、エンリケさまと取引していた男を探していたら、ここのお頭に捕まっちまったのさ。ここのお頭は、自分が作っている薬物がエンリケさまの手に渡っているとは夢にも思ってないみたいだけどな」
 男が上機嫌でべらべらしゃべるのはもちろん、ヴェロニカに見えないところでマイクの指が巧みに動いているのだ。
「あの変態王族は代々絶倫で有名だからな……そいつらに仕込まれただけのことはある。お前最高だ! 今度こそ、俺がお前の中に……」
 青ざめて硬直するヴェロニカの横で、マイクの足が素早く動いた。床に伸びた男はすでに白目をむいて気絶している。
 近くにあった荒縄で小男を縛り上げたマイクは、そのまま男を納屋に放り込んだ。
「ヴェロニカ、ここから逃げるぞ。ジャジータの町へ行って、仲介人をおさえる」
「あ、うん、そうね。こんなところにもう用はないわ」
 その前に風呂に入りてぇ、と立ち上がったマイクの腕にヴェロニカが自分の腕をからめた。
「……わたしも行く」
「おう、けど、お前も一緒に入るのか? 風呂だから裸だぞ?」
 こくん、とヴェロニカが頷いた。
「今だって裸のようなものよ。背中を流してあげる。傷、痛むでしょう?」

 立派な浴場には、先客が数人いた。男女が数人ずつだ。
 マイクとヴェロニカが姿を現すとニヤニヤ笑いながら近寄ってくる男たちがいた。いずれも悪人面だ。
「おい女、ここには棍棒がないぞ、どうする? この女に武器を持たすなよ」 
 こうするまでさ、とマイクが素早く動いて男を二人、床に這わせた。」
 どこをどう打ったのか、ヴェロニカにしか、わからなかっただろう。
「きたえねぇ手でヴェロニカに触った罰だ」
 あっという間に仲間が伸されて、ほかの男がいきり立った。
「お嬢ちゃん、これを使いな」
 湯船につかっていた女の人が、ぽーん、と竹の棒を投げてくれた。
 それを受け取ったのは、マイクだ。
「優男、おめぇそれでどうしようってのか?」
「自分のケツに突っ込むんじゃねぇの?」
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