王女・ヴェロニカ
 ぎゃはははは……と下品な笑いが終わらないうちに、竹の棒が美しく動いて男はみんな、床で泡を吹いた。
「馬鹿ね。マイクはわたしの武術の師匠よ。わたしなんかより、ずっと強いのよ」
 誇らしげなヴェロニカの声が響いた。

 マイクを洗い場に座らせたヴェロニカは、近くにあった石鹸で丹念にマイクの体を洗った。
 いつの間にか女の人たちも出て行って、この場にはヴェロニカとマイクの二人だけだ。
「マイク、わたしはこれで何回、マイクに助けられたんだろう……。どうやって恩返しをすればいい?」
「そんなもの、陛下が作った平和な国を守ればいい」
 マイクは、首にかけていたペンダントをヴェロニカに渡した。
「これ……」
「ちゃんと守ったぞ。お前に渡そうと思って」
「……でもわたしは、フィオが一人前になるまでの、繋ぎでしかない」
「それで十分だ。あいつも、良い王様になるだろ」
 ふいにヴェロニカが、マイクの背中に額をコツンとくっつけた。
「ヴェロニカ? どうした? どこか痛いのか?」
「ううん。ねぇ、マイク……。リッサンカルアにいたことがあるのね……?」
「……ああ」
「……聞いても、いい? その時のこと」
「……長ぇぞ?」
「ちゃんと、聞く」
「じゃあ、湯船につかろうぜ。このままじゃ、風邪ひいちまう」
 マイクがヴェロニカの腕を取って湯船に浸けた。ちょうどよい湯加減で、疲れがどっと流れ出ていく。
 何を思ったのか、ヴェロニカはマイクを背後から抱きしめた。
「ヴェロニカ、どうした?」
「わたしが、マイクにくっついていたいだけだから気にしないで……」
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