王女・ヴェロニカ
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その日はそのまま、納屋で眠りに就いた。
賊たちは、マイクやヴェロニカ目当てに襲ってくるが、ことごとく素手のヴェロニカの返り討ちにあって、ついには誰も来なくなった。
幸か不幸かあの薬とヴェロニカの「相性」が良かったらしく、まだまだ戦える気がする。
(マイクに手を出そうだなんて、許さない……)
だが、いつの間にかウトウト眠ってしまったらしい。
ふと目を覚ましたヴェロニカは、泥のように眠るマイクを残して、母屋へと足をすすめた。
外はまだ暗い。ピッカ一団は、大きな旗の下で宴会を続けている。
最初に取り上げられた棍が、テーブルの上に無造作に置いてある。それをいつもの場所——ドレスの下だ——に装着する。
用意は整った。
(こいつら絶対……許さない……)
血の匂いに気付いたマイクが飛び起きて母屋に駆けつけたとき、一団の人間は殆どが床に転がっていた。
しかも、半分以上はすでに事切れている。
その惨劇の中心に立つのは、もちろんヴェロニカだ。整った顔には表情がなく、返り血を浴びて凄惨だ。
「お前……!」
「マイク、起こしちゃった……?」
「……来いっ!」
マイクはヴェロニカを肩に担ぎ上げ、そのまま温泉に放り込んだ。
「ちょっと! 何するの!」
「……馬鹿……お前、何やってんだよ……」
マイクの顔も、声も、怒っている。
だが、手つきは丁寧だ。顔や長い髪についた血を落としていく。
「マイク、怒ったの? ダメだった? ごめんなさい……」
俺は怒ってるぞ、とマイクは何度も頷いた。
「いいかヴェロニカ、王たるもの、私情で人を殺しちゃいけない」
「わたしは王女よ、王じゃないわ!」
「いや、お前は王になる。そういう器だ。そろそろ自覚しろ。くれぐれも、軽々しく人を殺すな」
「マイクが傷つけられたことは、軽い事じゃないもの! それに……」
はあっ、とヴェロニカが珍しく、深いため息をついた。
「マイク……わたしは、父様やフィオと違って、国を預かる器じゃない。一軍を預かる程度の器なんだ」
「皆がいるだろ、グーレースとかジャスミンとか。みんな傍でお前を助けるよ」
「マイクは? 傍にいてくれないの?」
尋ねたほうのヴェロニカに、深い意味があったわけではないだろう。
だが、マイクは妙に動揺した。
「ヴェロニカ……いても、いいのか? 俺は……奴隷だった男だぞ」