一生片想い
社会人


ギラギラと太陽が眩しい夏。

私は蝉の鳴き声にさえかき消されるような声で宣伝に回っていた。


「…あっつ」


頬に伝った汗を拭いながら辺りを見回す。


「宣伝も何も人いねーよな」

私が見付けるよりも早く後ろから声が聞こえ、振り向くと一緒の仕事相手の國嶋結城がいた。


「本当に。でもこのチラシ配り終えるまで帰れないんだよね」

「だなぁ…」


まだ沢山あるチラシを確認して、二人して溜め息をついた。

なんでこんな暑いなかウロウロしなきゃいけないのか。


「なんでってお前…ジャンケンに負けたからだろ」


見透かしたように國嶋は言った。

「そうなんだけどね」


先月、私と國嶋、そして相沢さんという調理師の三人で喫茶店をオープンさせた。

私と國嶋は大学仲間で、相沢さんは國嶋の高校の先輩。

なんだかんだがあって始めた喫茶店を知ってもらうため、こうして時々繰り出すのだが。



「だけど…やっぱり真夏の昼にやるのは自殺行為だよ」

「間違いねぇ」


ジャンケンで負けたとはいえ。

こんな暑い中、平気で送り出した…いや、追い出した相沢さんは大分鬼に思えてきた。

國嶋もグッタリと顔を歪ませながら手でなけなしの風を送っていた。


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