強引上司の溺愛トラップ
観覧車を降りた私たちは、そのまま園内を出て、駅の方へと向かっていく。

結局、私の気持ちはまだ、課長には伝えられなかった。私も好きです、って伝えるべきだったのに、気持ちに気付いたばかりだからか、何だかまだ、言えなくて。


とはいえ、『キスが嫌じゃなかった』と言った時点で、私の気持ちは課長も分かってると思うんだけど。観覧車を出た直後から、サラッと恋人繋ぎされたし。


でも、あえて返事を急かさずにしてくれているところも、課長の優しさなのかな。



「あの、ではここで」

駅の改札を通ったところで、私は課長にそう言った。


「家まで送ってけど」

「いえ。反対方向ですし、まだこんな時間ですから。駅に着いたら兄に迎えに来てもらいますし、大丈夫です」

「そうか。じゃあ、また月曜日、会社で」

「はい」

課長は軽く手を振って、私に背を向けて歩きだす。


その背中を見て――今の今までずっと一緒にいたのに――月曜日になれば会社で会えるのに――何だか急に寂しくなって。


「課長っ」

思わず呼び止めてしまった。課長は少し離れたところで、「ん?」と不思議そうな顔で私に振り返る。


「えと……



家帰ったら、LINEしてもいいですか?」

私がそう言うと、課長はハハッと笑って、


「可愛いスタンプ送り返してやるよ」

と冗談を言って、今度こそ乗り口に向かって歩きだした。


そんな冗談すら、愛しく思えてしまう。



理想と現実は色々と違うのに……

私、どんどん課長のことが好きになっていく。
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