強引上司の溺愛トラップ
あの遊園地デートから二週間。

私はまだ気持ちを伝えられていないし、私と課長の間に、特別大きな動きはないのだけど……。



あのキスを思い返すと、胸がドキドキして、心臓が壊れそうになって。

課長の顔を見ると、余計に。



だから会社ではなるべく課長の方を見ないようにしているんだけど、前に早太くんに言われた通り、私は分かりやすいから。課長は私の反応を面白がって、何も用がないのに話し掛けてきたり、ちょっかい出してきたりする。まあ、私が分かりやすいと言っても、うちの課の人たちは一島くんも含めてほんわかのんびりしている人ばかりだから、課長意外には私の気持ち、バレていないと思うんだけど(お母さんと神くんにはバレた)。



朝の掃除が終わり、今日の仕事の確認をしていると、私のとなりで書類を整理しながら一島くんが言う。

「でもまさか、相手役に許嫁がいたとは思いませんでしたねー!」

「あ、私も思った。ビックリした」

それは昨日のドラマの話の続きで。
ドラマはそろそろ最終回なのだけど、ここに来て、主人公の女性が想いを寄せる男性に、許嫁がいたということが昨日発覚した。せっかく最近、主人公といい雰囲気だったのに。


すると一島くんは、いつものほんわかのんびりな癒し系の笑顔でこう言った。

「でも、許嫁っていまいちピンとこないですよね。いや、ドラマだからその設定は全然面白かったんですけど。実際に俺らの周りに許嫁がいる人なんていないじゃないですか。まあ世の中にはそういう暮らしをしている人もいるんだろうけど。あれですね、もしこの銀行の中に許嫁がいる人がいたら面白いですね」

「ふふ、そうだね」

「なんて、こんな普通の銀行に勤めている人の中に、そんなこと訳ないですよねー」


そんな風に会話をしていると、課長が横から「さっきから何の話してんだ」と声を掛けてくる。


「あ、課長。昨日のドラマの話をしてたんですよ。昨日は相手役に許嫁が出てくる衝撃回だったので!」

一島くんが相変わらず楽しそうに笑いながら課長にそう返すと、課長は「許嫁?」と短く答えて、そして。



「……そういえば最近会ってねぇな」




……という衝撃的な言葉を残し、自分のデスクへと戻っていった。





……はい!!?
< 113 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop