強引上司の溺愛トラップ
「ただいまー」

重い気分のまま、家の玄関の戸を開けると。


「お帰り、佐菜(さな)」

「あ、早太(そうた)くん! 来てたの!」

台所からひょこっと顔を出した早太くんが玄関まで来てくれる。


「おう。お盆だしな」

「お盆休みいいなぁ」

「ハハ。銀行はお盆でも仕事だもんな」


早太くんは、七つ年上の、私の兄だ。

お兄ちゃん、ではなく早太くん、と名前で呼んでるけど、普通に血の繋がった実兄だ。

年は少し離れてるけど、昔から私の面倒をたくさん見てくれた早太くんが、私はずっと大好きだ。



三年前に早太くんは結婚して家を出たけれど、遠くに住んでるわけではないので、こうしてたまに家に帰ってきてくれる。



「美香(みか)さんは? 一緒に来てるの?」

「美香は体調のこともあるから、今日は俺ひとり」

「じゃあ今夜帰る?」

「いや、美香は実家にいるし、一晩泊まって明日の昼に帰るよ」

「ほんと!」

美香さん、というのは早太くんのお嫁さんだ。
私の二つ年上の女性で、優しくて物静かな綺麗な人だ。

美香さんは妊娠していて、もうすぐ予定日だから今日は来てないとのこと。


美香さんにも久し振りに会いたかったけど、早太くんと会えたのが本当に嬉しい。
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