強引上司の溺愛トラップ
「佐菜?」

課長がもう一度、私の名前を呼ぶ。呼びながら、髪をすいてくれる。


「……佐菜サン。嬉しいんだけど、この状況でこれは、ちょっと我慢がキツい」

それを聞いて、私もハッとして、課長から離れようとしたけど。


……でも、無理で。



私は、課長に抱きつく手に一層力を込め、そして。



「わ、たし……」

「うん?」

課長は優しく、「どうした?」と聞いてくれる。


だから安心して、話すことが出来る。



「私、課長のこと全然タイプじゃないし、むしろ初めて会った時は何か怖かったんですけど」

「お、おう」

「この年になるまでちゃんと恋愛をしてこなかったせいで、理想ばかりが大きくなっていたんです。でも課長は……」

私は一呼吸置いて、自分の身体を課長から離した。そして、恥ずかしいけど真っ直ぐに課長の目を見て。


「……課長は、私の理想以上の幸せな恋をくれました」



背は低くないし、趣味はゲームじゃない。第一印象は何か怖かったし、今だってよく怒る。



だけど、こんなにたくさんの幸せを誰かに与えてもらえる日がくるなんて、想像もしていなかったの。理想以上なの。幸せすぎる。


課長との恋は理想の恋じゃないなんて思っていたけど、本当は、きっとずっと、そういうことだった。




……だけど、ポカンとした顔で私を見つめる課長を見て、自分がいかに恥ずかしいことを言ってしまったかに気付いた。
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