強引上司の溺愛トラップ
「え、え? 何ですか? 千鈴さんですよね? 会う約束してたんですか?」

私がそう聞くと、課長は眉間にシワを寄せて、明らかに機嫌の悪そうな顔をして、上半身を起こす。


「してる訳ねぇだろ。いきなり来たんだよ」

「でも、エントランスにもロックが掛かっているのに、どうしてここまで……」

「まぁ、エントランスだけなら他の住人がロック解除した時に一緒に入ってこれるしな」

「で、でも千鈴さんって、いつも凄く落ち着いていて、その、こんな風に急に押しかけて玄関叩くような人には見えなかったんですが」

「酔っ払ってるんだろ。一緒に酒飲んだことはないけど、相当酒癖悪いってアイツの家族から聞いたことある」

「そ、そうですか。で、どうしますか……?」

「無視するに決まってんだろ。続きするぞ」

「で、でも……」

「ここまで来てやめられるかよ」

そう言って、課長は再び私に覆い被さろうとするけど。


――ガチャ。

「あー! 鍵空いてる! おじゃましまーす!」

「!?」

課長はすぐに、ソファの背もたれに掛けてあった薄手の毛布を私に被せた。
そして、凄い速さでズボンを穿く。


廊下から声が聞こえる。千鈴さんと、もうひとり誰かいるようだった。


「優くーん、どこー」

「千鈴ちゃん! やっぱり勝手に上がったら駄目だって!」

「平気よぅ~、私と優くんの仲だものー。優くーん! 彼氏連れてきたの~!」


……何か、千鈴さんと一緒にいる男性の声は、よく知ってる声、に聞こえた。
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