強引上司の溺愛トラップ
「渡辺さん! おめでとうございます!」

一島くんにそう言われると、会場の人たちからパチパチと拍手される。

ブーケを取れなかった女性たちは本気で悔しがっていて、何だか申し訳ない。

花嫁さんに対しても不安な気持ちになった。私、花嫁さんのお友だちじゃないのなか、ブーケもらっちゃっていいのかなって。
だけど花嫁さんを見ると、目が合って、凄く華やかな明るい笑顔を向けてくれた。
そこでようやく、私も何だか嬉しい気持ちになれた。




その後、披露宴も和やかに行なわれた。
披露宴が終了し、この後は新郎新婦の近しい友人だけ集めて二次会があるというので、私たち会社の人間はここで帰る。
部長も係長も家庭があるし、時間もまだ早いし、私たちだけで二次会をすることもなく、私は課長とふたりで電車に乗っていた。


「そのブーケ、どうすんの?」

ぼんやりと吊り革に掴まっていると、ふと課長にそう尋ねられる。


「それはまあ、せっかくもらったんだから部屋に飾りますよ」

「まあ、そうだよな。……あのさ」

「はい?」

「それ、俺の部屋に飾ってくれない?」

「え?」

よく意味が分からなくて思わず首を傾げるけど、課長は「お願い」ともう一度頼んでくる。


「えーと……課長もブーケ欲しかったんですか?」

「違ぇよ」

「ですよね。えと、よく分かりませんが、いいですよ」

どっちにしろ、このまま一緒に課長の家に行き、着替えてから夕食に出掛ける予定だった。


課長の家の最寄りまで、あと二駅。
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