強引上司の溺愛トラップ
「エレベーターはこちらです」

エレベーターのボタンを押しながら私がそう言うと、課長は「……ありがとう」と小さく返した。


目は合わせない、言い方も素っ気ない。だけど、恐怖の対象だった課長からお礼を言われたからかな……私は何だか、嬉しくなった。


だからかな。つい、


「……課長って、方向音痴なんですか？」

と聞いてしまった……。



案の定、「うるさい」とギロリと睨まれ、私はしまった、と焦る。

だけど、「すみません。それでは……」とすぐにその場を立ち去ろうとしたその時。



「…誰にも言わないでくれよ」

さっきのお礼よりも小さな声で、課長は呟くようにそう言った。




「はい。大丈夫です。誰にも言いません」


そんな課長のことが、なんだか急にかわいく思えて、私は笑顔でそう返した。



すると。


「……っ」

「？　課長？」

「いや、何でも……」

「？」

最後の課長の様子についてはよく分からなかったけど、課長は怖い面もあり、だけど可愛い面もあるんだなって思った。




……それに。

最初は気付かなかったけど、あの視線の外し方、基本的に口数の少ないところ。そして、”同志”の勘。





……課長も多分、人見知りだ。
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