強引上司の溺愛トラップ
「え、って何?」

「だって…」と、お母さんが続ける。「一島くんは理想の男の子なんでしょ? アタックしたりしないの?」

お母さんの言葉に、神くんとなりでうんうんと頷く。


「無ッ、無理に決まってるでしょ! 私なんかがあんなかっこいい人と付き合える訳ないよ! 遠くから見てるだけでいいし、私なんかが隣でウロウロしてたら迷惑だろうし、あ、指導係だから多少は隣にも行くだろうけど、でも私なんかーー」

そこまで言った時、お母さんが急に私の口元に人差し指をあてた。
私は驚いて、思わず言葉が詰まらせる。


「佐菜はいつも、『私なんか、私なんか』って。神を見習いなさい! いつも調子こいて自信家で!」

「え、俺?」

「佐菜は頭がいいし、ちょっと大人しいけど優しいし、気配り上手だし、末っ子なのにしっかり者だし、料理も出来るし、そんなに自分を卑下する要素、全然ないんだから!」

するとお母さんは、私の唇にあてていた右手を、私の前髪まで持っていくと、その前髪をグイッと上げた。

そして。


「この長い前髪を綺麗に切って、欲を言えばこの分厚いメガネをコンタクトにすれば、絶っっ対もっと可愛くなるのに!」
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