強引上司の溺愛トラップ
まあ、そのままでも全然可愛いんだけどね、と親バカを言って、お母さんは手を離す。


お母さんの手によって上げられていた私の長い前髪が、パラリと落ち、また私の目を覆う。



私の長い前髪について、お母さんはいつも切れ、切れ、と言う。
神くんも「いつでも切ってやるぞ」と、美容師の血が騒ぐのか常日頃から言ってくる。



……でも、私はこれでいいの。前髪も眼鏡も。




本当は、こんな長い前髪はみっともない
と思う。
ただでさえ暗い性格が、余計に暗く見えてしまうとも思う。

眼鏡も、コンタクトにしてみたいっていう気持ちも多少はある。


ていうか、社会人二年目までは、コンタクトをつけていたし、前髪も普通の長さだった。



前髪も眼鏡も、あの合コンでの出来事がきっかけだ。

あの合コンでの一件から、男性と接するのがますます苦手になった私は。
男性からどう見られているかを常に気にするようになってしまい、前髪を伸ばし、少しでも顔を隠すようになっていた。
同じ理由で、眼鏡も掛けるようになった。素顔を直に見られるよりは、レンズ越しに目が合った方が、気休めだけど気が楽だった。



つまり、人と目を合わせるのが嫌だってだけなんだけど……ああ、つくづくダメな人間だな、私……。
< 35 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop