強引上司の溺愛トラップ
まあ大体見当つくけどな、と言って、課長は近くの座布団に座った。

元々誰が座ってた席かは分からないけど、皆酔っ払ったりお酌したりであちこち移動してるし、もはや最初の席なんて関係ないなと思って、私も課長の隣に座った。



「課長、飲んでますよね? どうぞ」

「ん」

私が課長のコップにビールを注ぐと、今度は課長が私の右手からビール瓶を取り。


「お前も飲んでるだろ」

「ありがとうございます」

課長と軽くコップを合わせ、私はビールをグビッと流し込んだ。



「何、結構飲めるの?」

課長は少し意外そうな顔で私にそう聞く。



「いえ、あんまり飲めないんですけど」

「だよな、そんな感じする」

「はい。でも、私こういう場で全然上手く喋れなくて、少しお酒が入ってた方がまだ話せるというか」

そう答えて、私はまた一口。酔いやすいけど、一気にグビグビ飲まなければ悪酔いはしない。



……そんな私に、課長が。


「……そうか。まあ分からんでもないけど、無理はすんなよ」


……と、意外な一言を発してくれた。



「…ふふ」

「何がおかしい」

「あっ、いえ! すみません、その! おかしくはないんです!
ただ、課長って、こうやって部下の飲み過ぎの心配とかしてくれるんだなって思って……」

課長は、言葉遣いとか雰囲気とか、最初は怖いイメージだったけど。

でも、実際はちょっと方向音痴で、だけど素直に人を頼れない、かわいいところがあって、多分人見知りな面もあって。


そして、こんなふうに優しい面もあるんだ、って思ったら、何だか自然と笑みがこぼれてしまった。



「……っ」

「課長?」

「い、いや。何でもない」

「?」

私が笑った時に、課長の顔がちょっと赤くなった気がしたけど、よく分からない。まあ多分ビールのせいだろう。
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