強引上司の溺愛トラップ
「て、ていうか。飲み過ぎの心配くらいするだろ、普通に。まあ周りからは怖いって思われてるし、そう思われてもおかしくねぇけど……」

「え、いえ、怖いなんてそんな……」

「いいよ、正直に言っても。自分でも厳しい自覚はある」

「その……確かに怖いって思うところもあります。私も最初はそう感じてました。でも……」

「でも?」

「一緒に仕事を始めて、誤解だったのかなって。怖いんじゃなくて、厳しいっていう感じなのかなって思っています。課長は、理不尽な要求とかをしてくる訳ではないので。なので、最近は特に怖くないです」

「……」

「課長、凄く仕事が出来る方なので、勉強になることたくさんありますし」


「……ていうかお前さ」

「え? はい」

「さっきあっちで係長に絡まれてた時とか、そうでなくても普段から男と話す時にほとんど喋ったり笑ったりしてないのに、何で今、俺にはそんな普通に笑って話してくれてんの」

「え?」

言われて初めて気づいた。
そういえば、確かに。

いつもより普通に会話が出来ているのはお酒のお陰があるかもしれない。
でも、こんなに自然に笑いながら話せているのは、きっと単純に、楽しいから。

そして。


「私、男性が苦手なんですが、課長は『男の人』って感じがしないから結構話しやすいのかもしれません」

「……」

「時には厳しいけど優しくて、お兄ちゃんみたいな感じがします。はは」


あ、私もしかして既に結構酔ってきてるかな?
でもまあいいか、失礼なことは言ってないよね。



「……お兄ちゃん?」

「はい」

「……まあ、とりあえずいっか。お前がその笑顔を見せる男が俺だけってのに代わりはないよな」

「え? すみません、聞こえませんでした」

「別にいい。あ、コップ空じゃねーか。でももうやめとくか? 結構酔ってるだろ、お前」


課長がそう言った、ちょうどその時だった。



「俺も交じっていいですか?」

後ろからそう声を掛けてくれたのは、一島くんだった。
< 40 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop