強引上司の溺愛トラップ
なんだか断り辛い雰囲気で、俺は渡辺の兄の車に乗せてもらった。
渡辺の兄の目が、「言うこと聞かなきゃ妹にバラすぞ」と言っていた気がして……。


「課長さんはいつから妹のこと好きなんですか? まだ知り合って数日だと思うんですけど」

……車を走らせて数分後。渡辺の兄は、唐突にそんな質問をぶつけてきた。当の渡辺は、なにも知らず、後部座席でスヤスヤと眠っている。


「……いや、好きとかそういうんじゃないんですけど……」

「ふーん、そうですか。あ、ここ右でいいですか?」

「いや、左で」

「右に行っちゃいますよー?」

「……まあ、大人しいけど真面目でいい子ですよね」

俺がそう答えると、渡辺の兄はハンドルを左に切った。

なんだこの男。顔も性格も、渡辺とは全然違うな。まあこんな時間に迎えに来てくれるんだから、仲はいいんだろうけど。


「じゃあ、妹のそういうところが好きなんですか?」

ほら、また『好き』とか決めつけてくるし。好きなんて一言も言ってねぇだろ。俺はただ、少し気になってるだけ……


……あ、やっぱ気になってるんだ、俺。
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