強引上司の溺愛トラップ
「ま、とりあえず水でも飲んだらどうかね?」

そう言って、神くんは私に水の入ったコップを手渡してくれた。
夕べ、課長にも駅のホームで水のペットボトルもらったなぁ……そこはちゃんと思い出した。


受け取った水を口にすると、体がひんやりとして、気持ちいい。




「ところで、」

そんな私を見ながら、神くんは部屋の真ん中に置かれたテーブルの横に腰掛け、私に尋ねる。

「用心深いお前がそこまで飲んじゃうってことはさー、よっぽど楽しかった訳? 飲み会」

神くんの発言に、私は口に含んでた水を吹き出しそうになった。


「な、な……」

「何だよ、図星? それってさ、どっちと飲んだのが楽しかったの? 例の新人? それとも昨日の課長?」

「な、なに急に……」

「いいから」

「え、そりゃあ新人の男の子だよ……」

「なんだ」

「え?」

「あ、いや別に」

神くんのリアクションの意味がよく分からなかったけど、私は話を続ける。

「あのね、一島くんもアプリのゲームやるんだって! しかもキャッツアタック!」

「え、マジ? 凄いじゃん。佐菜の理想のまんま」

「うん! 理想が現実になった! ビックリだよ!」


……まぁ、それで飲み過ぎて人に迷惑掛けちゃいけないんだけどね……。



でも。



「……少し、頑張ってみようかなって」

私は呟くようにそう言った。


「私なんかが頑張っても、ってずっと思ってたけど……せっかくこんなに理想の人が現れたんだから、本当は……もっと近付きたいの」
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